「涙が出るほどうれしかった」10年前の契約社員への転換
私の場合は運よく、10年ほど前、アベノミクスで景気が上向いてきた時に派遣されていた企業から「小暮さんには長く働いてほしいので、業務委託契約に切り替えてもらえないか」と声をかけられ、契約社員になりました。派遣社員には“3年ルール”があり、1つの派遣先で働ける期間が限られていたからです。正社員への登用ではないものの、私は自分の仕事ぶりが認められたように思い、うれしくなりました。
それからずっと、今の会社の人事部で働いています。それほど大きくない食品の卸売会社なので営業の人を除けば異動は少なく、部員の顔ぶれもほとんど変わりません。皆穏やかでいい人ばかりなので、私にとっては働きやすい職場です。次第に福利厚生やDC(企業型確定拠出年金)など大切な業務も任されるようになり、仕事にやりがいも感じていました。
新入社員の初任給は27万円、心の中にはわだかまりが…
しかし、2024年、2025年と春闘で大幅な賃上げが実現され、勤務先でも従業員の給料が上がっている中で、私の報酬はなかなか上がりませんでした。契約は1年更新なので年度末には上司である人事部長との面談があったのですが、その際、「小暮さんは人事部にはなくてはならない存在だし、社員並みに昇給したいところだけれど、会社として業務委託契約の人への賃上げをどうするかが固まっていないんだよね。悪いけど、今年は現状維持でお願いできないかな」と言われてしまいました。
部長の言う社内事情はよく分かり、断ることはできませんでした。そして、何となくもやもやした気持ちを抱えたまま新年度入りしたのです。
4月1日、今年は新たに3人の新入社員が入ってきました。営業が男性1人と女性1人、そして、今会社が力を入れている卸売のシステム構築を担当するSEが男性1人です。
3人とも大卒で22歳、私から見れば子供のような年齢です。本来なら先輩として温かい目で迎えてあげるべきなのでしょうが、心の中にはわだかまりがありました。
今の新卒採用はバリバリの売り手市場です。優秀な人材に入社してもらうには初任給をアップする必要があり、勤務先でも数年前から初任給の段階的な引き上げを実施してきました。結果として、この3人の初任給は27万円近くまで上昇しています。初年度は住民税の徴収もありませんから、おそらく手取りは私と大して変わらないはずです。
海のものとも山のものとも分からない彼らの初任給が10年選手の私と同じ! 人事部に勤務する私はそれを知っているからこそ、どうしても彼らを色眼鏡で見てしまいます。そうした中で、あの事件が起きたのです。
●その後、新入社員との間に起きたまさかのトラブル――“犯人扱い”された小暮さんの苦悩と、その後の展開とは? 後編【人事部10年のベテランvs“金の卵”の新卒SE、説明会での舌打ちからトラブル勃発…辞めたくても辞められない氷河期世代の悲劇】で詳説します。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。