先輩に誘われた仕事
「お前、よく働くな」
振り向くと、そこにいたのは山城さんだった。
この現場で何度か顔を合わせているが、名前を知ったのは最近のことだ。年齢はよく知らないが、見た目は70歳くらいに見える。深い皺と日に焼けた肌、それに妙に落ち着いた雰囲気がある人物だ。
「え、そうですか? 別に普通だと思いますけど……」
「金、困ってんだろ?」
不躾だったが図星だった。祐太がなんと答えるべきかと思案していると、山城さんが続けた。
「今度、近くの桜祭りでテキ屋の手伝いやらねぇか? 簡単な仕事だし、現場よりは楽だぞ」
「何売るんですか?」
「食いもんだよ。焼きそばだよ」
山城さんは煙草に火をつけながら答えた。
「どうせ暇だろ? いいバイト代になるし、悪い話じゃねぇと思うがな」
「でも……大丈夫でしょうか? 俺、その、接客ってほとんど経験ないんですけど……」
「あんま難しく考える必要はねえ。とにかくハキハキ声出してやってれば文句は言わねえよ」
「そういうもんですか……」
「まあな、お前は若ぇし、体力もあるから大丈夫だろ。で、どうする? 日給は2万な」
「え、そんなにもらえるんすか」
祐太は思わず声色が変わってしまった自分を恥ずかしく思ったが、背に腹はかえられない。
フリーター生活は楽ではない。収入が安定しない分、働かなければ一瞬で生活が回らなくなる。少しでも金になるならやってみてもいいかもしれないと思った。
「……わかりました。やります」
祐太が答えると、山城さんは満足そうにうなずいた。
「よし、そんじゃ決まりだ。携帯出せ。メールで集合時間と場所送るから」
「あ、はい。お願いします……LINEとかでも大丈夫ですか?」
「は? らいん?」
山城さんは口を開けたまま、ポケットから取り出した二つ折りの携帯電話を突き出した。
今日日ほとんど見ることのないガラケーに手打ちで連絡先を交換すると、山城さんは片手を上げて去っていった。
「じゃあ、あとで場所と時間は連絡するから。頼んだぞ」
こうして祐太は、桜祭りでの仕事を引き受けることになった。