祭りでの仕事は

桜の花びらが風に舞い、春の匂いが祭りの喧騒に混じっていた。

「ほら祐太、手ぇ止めんなよ!」

山城さんの声に、祐太は鉄板の上で出来上がっている焼きそばをパックに詰める手を速めた。

桜祭り当日、祐太は山城さんの屋台で、ひたすら客をさばき続けていた。一応覚悟はしていたつもりだが、思った以上に忙しい。山城さん曰く、いい時は1パック500円の焼きそばを1日売って、売上が25万を超えることもあるらしく、そのときに比べれば大したことはないと山城さんは笑っていたが、野菜を切り、出来上がったものを詰めては売る――その繰り返しで目が回りそうだった。

「はい、お待たせしました! 焼きそば1丁!  熱いのでお気をつけて! お次の方、ご注文どうぞ!」

プラスチックの容器に盛った焼きそばを手渡しながら、息をつく間もなく次の客の注文を確認する。

身を乗り出せば、相変わらずの長蛇の列が見える。祐太は汗をぬぐう暇もなく、次の注文を受けて焼きそばを容器のなかに詰めていく。

あまりの忙しさに最初は戸惑いこそしたが、仕事は意外と楽しかった。

山城さんの言った通り、難しく考える必要はなかった。子ども連れの家族や、浴衣姿のカップル、酔っ払ったおじさんたち。いろんな人がやってきて、焼きそばを受け取るたびに「ありがとう」と言って祭りに戻っていく。

「お兄さん、焼きそば美味しかった!」

小さな男の子が笑顔でそう言ってくれたとき、なんだか少し誇らしい気持ちになった。

「おう、いいねぇ。だんだん板についてきたじゃねぇか」

山城さんが焼き台の奥から笑った。祐太は「まあ、なんとか」と息をついた。
「……おおい! このゴミはどいつのだ!?」

野太い声が右隣の射的の屋台から聞こえてくる。

思わず反応して視線を向けると、厳めしい店主がこちらを見ていた。

金髪のオールバックで、半袖を肩までまくり上げた太い腕にはびっしりと和彫りの入れ墨が入っている。色の薄いサングラス越しの視線は鋭く、口ひげも相まって表情が怖い。祭りが始まる前に挨拶こそしたが、あまり関わりたいと思える風貌ではなかった。

そんな強面の店主の手には祐太が飲み干してクーラーボックスの隣に置いておいたはずの空のペットボトルがあった。いつの間にか風で隣の屋台へ転がってしまったらしい。

「俺のです! すみませんでした!!」

思わず駆け寄って平謝りした。冗談でも何でもなく、殺されるのではないかとすら思った。だが、店主は祐太の背中を思いのほか柔らかいタッチで2度叩いた。
「んだ、坊主のか。気をつけろ。ここの祭りはゴミとかにめちゃくちゃうるせえんだ」

「あ、はい、ありがとう……ございます」

拍子抜けする祐太を置いて、店主はやってきた小学生の集団に射的のやり方を説明し始める。祐太が屋台に戻ると、山城さんがいたずらっぽい笑顔を浮かべていた。

「あの兄ちゃん、見た目はアレだが、いい奴だろ」

「……そう、みたいです」

「まぁ、祭りじゃいろんな奴が働いてんだよ。それも含めて楽しめ」

「はい」とうなずいて、持ち場に戻ろうとした瞬間だった。

「NO! NO! You got the amount wrong!」

今度は左隣の屋台から喧噪のなかでもよく通る大声が聞こえた。

「だから言ってんだろ! これ以上まけらんねぇって!」

左隣の屋台の前で背の高い外国人とねじり鉢巻きの店主が口論になっていた。店主の顔は険しいが、外国人客も負けじと身振り手振りで抗議をしている。すでに周囲の客にもただならぬ空気は伝わり始め、一触即発の緊張感が漂っていた。

●祭りの最中、次々と舞い込むトラブルの対応に追われる祐太だが、懸命に働き続けるなかで、忘れていた働く喜びを思い出すようになる。後編【「お兄ちゃん助かったよ!」外国人の相手に迷子…次々起きる“お祭り騒ぎ”を経て20代フリーターが見つけた「働く意味」】にて詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。