初めてのデート
「素敵なお店ですね」
「実は、前から気になってたお店だったんですけど、1人で来るにはちょっとハードルが高くて。なので今日花岡さんと来れてよかったです」
流されるように始めたマッチングアプリだったが、出会いというのは思いのほかインスタントに転がっているらしく、健人はアプリで知り合った花岡麗奈と初めてのデートに臨んでいた。
「タブレットで注文するなんて最先端ですね!」
「最近、増えましたよね。こういうお店」
落ち着かない子どもように店内を見回している麗奈は去年40歳になったらしい。前妻が年下だったこともあり、年上の女性のほうが何かと気楽だろうというのが健人の考えでもあった。
「ファミレスなんかだと、今、ロボットが配膳してくれるような店もありますからね」
「ファミレス……?」
麗奈が首をかしげる。思わぬところでのつまづきに返す言葉を探しているうちに、頼んでいた看板メニューのオムライスが運ばれてきて、健人は小さく胸を撫でおろす。
「これはまた、珍しい感じですね……」
しかし目の前におかれたオムライスを前に、麗奈はまた首をかしげている。
とはいえ、皿の上のオムライスはチキンライスの上に卵が乗っかっているだけだ。ウエイターがナイフで卵の中心に切れ込みを入れると卵がチキンライスに覆い被さり、半熟のオムライスが完成する。
この手のオムライスがもてはやされたのはだいぶ昔で、珍しくはないと思うのだが、まるで初めて見たかのような反応だった。
案の定、麗奈はチキンライスの上に広がった半熟の卵を凝視しながら目を輝かせている。
「スゴいですね! どうやってこれ作ったんだろう?」
「まあ作ってみたらそこまで難しい技法ではないみたいですよ。俺は料理をしないのでよく分かりませんが……」
「そうなんですね。それじゃ今度自分で挑戦して、父と母に食べさせてあげようかな」
「ご実家なんですもんね。普段はあまり外食とかはされないんですか?」
「え? どうして分かったんですか?」
「いえ、何となく慣れてない感じがして……」
麗奈は肩をすくめてうなずいた。
「そうですよね。子どもみたいにはしゃいじゃって、すいません、お恥ずかしい話ですが、仰る通りで全然外食はしないんですよ。そういう家庭なんです」
「そうなんですね。料理はいつも麗奈さんが?」
「作るときもあります。でも母が包丁は危ないっていうので、普段は簡単なものばかりです」
「なるほど」
としか言えなかった。
40歳にもなって包丁が危ないというのはどういうことなのだろう。