挑戦してみる価値はあるんじゃない……
思わず聞き返すと、奈津美はあっけらかんとした口調で続けた。
「そう、今は時代が違うよ。学び直しって言ってね、シニア向けに大学へ入れる制度があるんだって。小論文と面接だけの入試とか、いろいろ選べるみたいよ」
奈津美の言葉に、冬美は素直に驚いた。年を取った冬美でも、大学に通える制度があるなんて思いもしなかったからだ。
「そんなこと、できるのかしらね。私みたいな年寄りが、今さら……」
「できるよ、お母さん。今だからこそできることもあると思う。挑戦してみる価値はあるんじゃない?」
その言葉に、心がじわりと温かくなるのを感じた。電話を切ったあと、冬美はさっそく自分で調べてみることにした。スマートフォンを開き、「シニア 入学制度」と
検索してみると、出てきた画面には、いくつもの情報が並んでいた。
短期大学やシニア向けプログラム、さらには特別支援のあるAO入試制度の案内もあった。
入学金と授業料で、ざっと120万円。シニア特別支援AO入試の合格者は、多くの大学で授業料が減免されるらしい。これなら夫が残してくれた冬美の貯蓄からでも十分に賄えそうだ。
「こんなこと、本当にできるのね……」
冬美は夫の仏壇の前に座った。彼の遺影をじっと見つめ、小さく手を合わせた。
「あなた、私……大学に行ってみようと思うんだけどどうかしら。遅いなんてことないって奈津美が言うんだけど」
遺影の夫は、何も言わず静かにこちらを見つめていた。その強い意志のこもった視
線に背中を押されるような気がして、冬美は心の中でそっと決意を固めた。
「もう一度、挑戦してみるわ」
そう小さく呟いたその声は、確かに自分自身を奮い立たせていた。