<前編のあらすじ>

イベントごとが苦手なこともあり、バレンタインデーを蛇蝎のごとく嫌っている真央。そんな彼女の心を波立たせる出来事が起こる。中堅Sierに転職した夫の昌志が原因だった。

もともとバレンタインデーとは縁もゆかりもないはずの昌志が、バレンタインデーに同僚からチョコをもらい帰ってきたのである。「昌志も浮ついたイベントが好きだったのか」と真央は落胆する。

一方で、喜ぶ昌志の顔を見て、真央の心には一抹の不安もよぎった。

「無理をさせていたのかもしれない、このままでは愛想を尽かされてしまうのでは」

友人の理香子に相談した結果、真央は自身もバレンタインデーチョコを作ることを決める。

前編:「このままじゃ、愛想を尽かされるかも」同僚からバレンタインチョコをもらい喜ぶ理系夫に妻が感じた”危機”

バレンタインデー準備のために有休を取得

「いってらっしゃい」

「うん、いってきます。真央も遅れないようにね」

「ありがと」

真央はいつものように昌志を会社へと送り出し、扉が閉まったのを確認してから深く息を吐く。普段なら、スーツに着替えてメイクをして出社の準備をする真央だったが、今日はジャケットの代わりにエプロンをつけ、キッチンに向かった。

バレンタインデー当日、真央はチョコづくりのために有給を取っていた。

棚の奥に隠しておいたチョコレートをキッチンに並べる。SNSを開き、昌志にばれないようこの1週間で何度か試作してきたチョコテリーヌのレシピを開く。

1日で手軽に作れて、見栄えがいいものを探した結果、落ち着いた答えがこのレシピだった。

しかし、前回までの試作では、満足のいく完成品は作れていない。

理由は計量のずぼらさ、と真央は考えている。普段から料理をしている真央は何となく目分量でもそれなりの味付けをすることができるのだが、YouTube動画で学んだ限り、お菓子作りの成功は細かい計量が握っているらしかった。

「よし」

真央は腕をまくり、力強く声に出した。