今まで食べたチョコで一番おいしいかも
それから2人は食卓を囲んだ。料理が豪華なせいか、普段の食事よりもさらに会話が弾んだような気がした。料理をすべて平らげれば、残すはデザートのチョコテリーヌだけ。
真央と昌志は並んでキッチンに立ち、型に入れていたチョコテリーヌを皿の上に出した。
が、四角い長方形で盛り付けられるはずのテリーヌは、うなだれるように台形に潰れていった。
「うわ、固まり切ってない……」
真央は思わず溜息をつき、肩を落とす。ちゃんと全部の材料を分量通りに計って作ったはずなのに。
だが、昌志は出来栄えを気にすることなくフォークでテリーヌの角を切り、口に運んだ。
「お、めちゃくちゃ美味しい」
「ほんと?」
「ほんとほんと。今まで食べたチョコで1番美味しいかも」
「いや、大げさ」
しかし昌志の手は止まることなく、次から次へと柔らかすぎるテリーヌをすくって口へと運んでいく。食べるたびに「美味しい」とくり返す表情は、去年動物のチョコレートを食べていたときとは比べものにならないくらい、少年のように屈託なく輝いて見えた。
「もう、味見で食べ過ぎだから。盛り付けるから、昌志はコーヒー淹れて」
真央は昌志からチョコテリーヌを取り上げて背を向ける。思わず緩んでしまう口角を、見せたくなかった。
「ちなみに、今年限定。お菓子作り大変だし、来年はもうやらないから味わって食べてね」
真央が言うと、昌志が落胆の声を上げる。その声はやはり少年じみていて、真央はとうとう堪えきれずに笑みをこぼしてしまった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。