<前編のあらすじ>
瑠璃(34歳)は結婚に焦っていた。11月の連休を使って、独身仲間の友人と出雲大社に良縁祈願へ行った。
そのかいあってか、マッチングアプリで知り合った大貴(31歳)と趣味や価値観が似ていることが分かり、盛り上がる。結婚への価値観も似通っていた瑠璃たちは、交際1カ月で同棲を始めることになった。
ある日、大貴が相談なしに30万のロードバイクを買ってきた。健康のためだというが、良いと思ったものには糸目をつけずお金を使う大貴に、瑠璃は面を食らう。
相談くらいしてよと伝えるが、大貴は「俺たちもう大人じゃん。なんで自分で稼いだお金を使うのにいちいち瑠璃の許可がいるの?」と、あきれた態度を取られてしまう。
●前編:「なんで自分の稼いだ金を使うのに許可がいるの?」交際1カ月で同棲に至ったカップルの「お金のモヤモヤ問題」
相談なしの高額な買い物はあり・なし?
「だってさ30万だよ。そんなものをさ、相談もなしに買ってきちゃうってちょっと変じゃない?」
ロードバイクの件があってから2日後、瑠璃は光莉とランチを食べながら大貴のことを愚痴っていた。
「まあ、瑠璃の気持ちは分かるよ」
「普通さ、一緒に住んでるんだから相談くらいしてくれても良くない? 自転車なんていっぱいあるのに、わざわざそんな高いものを買うなんてさ……」
ロードバイクを購入した日、お互いに気まずさを感じているのかあまり会話をすることはなかった。それからロードバイクについて大貴と話をすることはない。お互いにこの件について話をするとけんかになるだろうということを、なんとなく理解しているからだ。
ここまであっという間に同棲まで来たので、瑠璃たちは1度もけんかをしたことがなかった。一緒に暮らしているとは言っても、まだ出会って3カ月。お互いのことをよく知り、関係が成熟しているとは言いがたい。もし今回できた心の溝が埋まらない状態が続けば、燃え上がっていた愛情が冷めて関係解消になる可能性すらあるのではないかと思った。
「まあ、瑠璃の気持ちは分かるけど、私は別にその彼氏が悪いとは思わないけどなぁ」
話を聞いていた光莉は安穏とした口調でケーキをほおばる。
「え? 何でよ?」
「だってさ、別に同棲しているだけでしょ? 結婚してたら別だけど、まだ同棲なら別に相談しなくてよくない? 家賃とかそういうのは払ってくれてるし、家事とかだってきっちり分担なんでしょ?」
「う、うん。それはちゃんとしてくれてる……」
「だったらそんなに文句言わなくていいんじゃない? やるべきことはちゃんとやって、余ったお金を使って自分がなにをしようと勝手じゃん。それで口出しをされたら、私だったらちょっと嫌かもな……」
光莉の意見を聞いて、瑠璃は目線を落とす。
それがきっと大貴の意見なんだと思う。やることはやってる。だとしても、瑠璃は自分の言ってることが間違ってるとも思えない。
「でもさ、単なる同棲じゃないんだよ。結婚を前提としているやつじゃん。そうなるとこの段階から将来に向かって貯金とかそういう話になるよね?」
「でも2人の貯金に手を付けたとかじゃないんでしょ?」
光莉の言葉に、瑠璃は力なくうなずく。
「ほら、だったら悪くないじゃん。お金の使い道がギャンブルとかでもないんだし、怒るようなことじゃないって」
光莉の意見は筋が通っている。それでもあのとき、怒ってしまったのは将来に向けて貯金をしていこうと言うのは当然、分かってくれてると思ったからだ。
大貴とは初対面のときから何でも話があった。結婚観だって似ていた。だからこそ大貴とは言わなくても通じ合えているのだと思い込んでいた。
だからこそ、瑠璃は大貴の行動が裏切りだと感じてしまった。本当はそんなことはなく、大貴はただ、いい買い物をしたんだという喜びを、瑠璃と分かち合いたいだけだったのだろう。
「まあでも、2人のことだし正解なんてないと思うけどね。ちゃんと話してみるのがいいんじゃない?」
「うん……」
「てかそういう幸せな悩みはいいからさ、大貴さんの友達とか紹介してよ」
光莉はわざとらしい明るさで言って、デザートに頼んだパフェを頰張った。瑠璃は光莉の言葉通り、大貴と話してみようと思った。