さて、今回はどうだったか。利上げしている最中だったこともあり23年4月までは資金需要が落ちています。しかし23年7月に利上げがピークアウトしてから資金需要は戻ってきています。
24年7月には0まで戻ってきた。しかし、2回利下げをしているにも関わらず24年7月から24年10月までの間に、資金需要が-21.3に落ち込んでしまった。事業会社などお金を借りる人はどんどんと後ろ向きになっている。
長期金利の動きも鑑みると、FRBは金利を下げたが、市場金利は上がっている状況にあることもわかります。つまりお金を供給する側である、銀行や投資家は「その金利では悪いけれど貸せない」と考えているわけです。
ここまでの流れを振り返ると、トランプ大統領は減税など景気刺激策をこれからどんどん打とうとしているが、足元の景気は悪くなっているということになります。これはよくない。
トランプシフトについて「円安だ」「株高だ」と浮かれている人も多いですが、グローバルなマネーの流れで言うと、アメリカにとって良くない形で動いたなと思います。
11月16日に発表される小売り統計、12月初旬に発表される雇用統計、そのあとのFOMC。ここで長期金利の上昇が是正されることになれば、今回の私の懸念は杞憂に終わります。債券市場もFRBと同じ方向を向けば、大きな摩擦は生まれないでしょう。
しかし、しばらくの間、エアポケットに入ったことは事実です。トランプ政権はすぐに景気刺激策を打てるわけではありません。ちょっと危ない数カ月に進み始めているなと思っています。
債券市場はインサイダーマーケットである点が株式市場と異なります。金利を取引している。金利を需要する方は、消費者や事業会社。他方で金利を貸すのは投資家や銀行です。立場は必ず決まっている。「銀行が金を借りたい」「事業会社が金を貸したい」ということは起こりえません。
となると投資家や銀行の方は「もっと高いお金じゃないと貸せない」と利回りを要求してくる。現代社会、2024年11月の場合で言うと、「トランプが来る。景気が刺激される。おたくは業績が良い。その金利じゃあ貸せないよ」となるわけです。
ところが事業会社は「しんどいですよ…」となる。どんどんと乖離していっています。こういった流れはえてして失敗、そして最終的に債券市場が読み間違うケースが多いです。やはり正しいのはFRBということになります。
一度だけ、債券市場が正しかったケースもありました。1998年、ロシア危機のときです。ロシア国債に投資をしていた、米ヘッジファンドロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が破綻に追い込まれました。
このときは「もう利下げは終わった」「一時的に金融危機が来たがもう大丈夫である」という債券市場の読みは正しかった。
しかし、コロナ前、金融危機、ITバブル、湾岸戦争。過去の事例を見ると債券市場の方が間違えているケースの方が多い。
債券市場はそもそも金利は下げたくないので、ある程度金利が下がると「金利が下がった、もう十分だろう」と考える傾向にあるからです。しかしFRBは銀行や投資家の思惑を無視して金利をどんどん下げていく。慌てて債券市場も金利を下げていく。このような現象が確認されています。
今回はどのような決着を見るのか。ここから数カ月で結論が出ると見ています。
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岡崎良介氏 金融ストラテジスト
1983年慶応義塾大学経済学部卒、伊藤忠商事に入社後、米国勤務を経て87年野村投信(現・野村アセットマネジメント)入社、ファンドマネジャーとなる。93年バンカーストラスト信託銀行(現・ドイチェ・アセット・マネジメント)入社、運用担当常務として年金・投信・ヘッジファンドなどの運用に長く携わる。2004年フィスコ・アセットマネジメント(現・PayPayアセットマネジメント)の設立に運用担当最高責任者(CIO)として参画。2012年、独立。2013年IFA法人GAIAの投資政策委員会メンバー就任、2021年ピクテ投信投資顧問(現・ピクテ・ジャパン)客員フェロー就任