時給アップでアルバイトの稼働時間が減る

店では仕入れや調理は専ら店主である私と、開業時から一緒に働いているベテランの板長とで担当しています。接客や酒類の扱いは同じホテルの料飲部門で働いていた妻がマネージャー役となり、配膳用に10数人のアルバイトを雇っています。アルバイトは、ランチタイムが近所の主婦、夜の営業は近くの学校に通う大学生や専門学校生が中心です。

うちの店は高級店ではありませんが、雰囲気のある落ち着いた空間で旬の和食を楽しんでいただくことを目指しており、妻やアルバイトの女性のユニフォームは和服です。求めるサービスの水準が高いので、アルバイトの時給は最低賃金より1割ほど高く設定していました。

政府の賃上げ方針で、10月からは東京都の最低賃金が一気に50円引き上げられます。それに伴い時給を1280円にすると、人件費は年間60万~70万円もの負担増になります。

最低賃金の引き上げはもう1つ、別の問題もはらんでいます。家族の扶養でいるために年収をセーブしているアルバイトの場合、時給が上がるとその分、労働時間を減らす必要が出てきます。

慢性的な人手不足でなかなかいい人材が確保できない一方で、確実に計算できる既存のアルバイトの稼働時間が減っていくのですから、何とも頭の痛い話です。

しかも、タイミングの悪いことに、夜のアルバイトの取りまとめ役だった女性が夏前に辞めてしまいました。彼女は大学4年生で、9月からの海外留学が決まったのです。以前からアメリカでファインアートを学びたいと話していて、その夢がかなった形だったので、こちらも笑顔で送り出すしかありませんでした。

コロナ禍での営業再開時に入ってきた彼女は、接客のプロである妻も舌を巻く機転とサービス精神の持ち主でした。入店2年目からは早くもリーダー格となり、夜のアルバイトの教育係やシフトの管理もしてくれていました。

愛嬌があり話し好きなため常連さんからの人気も高く、たまたま彼女が休みの日にいらしたお客さんから「今日は彼女の顔を見に来たのに」と愚痴られることもしばしばでした。

責任感のある彼女は辞めるに当たり、信頼できる大学の後輩を1人紹介してくれました。その後輩も彼女が太鼓判を押すだけあって1年生ながら即戦力になっていますが、さすがにすぐに彼女の穴を埋めるというわけにはいきません。