モラルの低下が目立ち始め、時給アップを決意

彼女の離脱で気になっているのが、アルバイトのモラルの低下でした。新顔の若いお客さんの中には、平気でアルバイトの女性を口説いたりする方もいらっしゃいます。彼女がいる頃はアルバイトの中で自主規制が働いていたのですが、妻の目の届かないところでプレゼントを受け取ったり、デートに応じたりしている子がいたと聞き、とても残念な気持ちになりました。

妻の提案で最低時給を1500円まで引き上げることを決めたのは、そんな経緯があったからです。1500円は最低保証で、働き方や経験に応じて2000円近くまで上がる仕組みです。人件費の負担増は年間で100万円を超えますが、それも店の構造改革で何とかなると考えていました。具体的には、厨房業務やサービスの効率化を図るため、提供するメニューを日替わりコース1本にするつもりでした。

「時給を上げれば希望者が増えて、質の高いアルバイトを採用できる可能性も高まる」というのが妻の言い分でした。賃上げ効果は侮れず、実際に応募は増加し中には近隣のAランクと言われる大学の学生も混じるようになりました。結果的に私や妻も納得するメンバーを揃えられ、10月からのメニュー改革に向けて走り出しました。

妻は店に置く酒の種類も絞り込み、ワインのペアリングのように当日の料理に合わせた日本酒のコースを用意することで、利益率を改善しようと考えていたようです。

板長から「ご相談があります」と言われたのは、そんな矢先のことでした。この1年ほどは忙しさにかまけて酒を酌み交わす機会もほとんどなかったので、日頃の慰労も兼ねて、店が休みの日にホテル時代の先輩が営む和食店に誘いました。