タワマン妻のヒエラルキー
7歳になる息子を小学校へ送り出したあと、ほぼ入れ替わりでやってくるハウスキーパーを出迎える。掃除や洗濯は彼女に任せ、麻美は身支度を済ませて外へ出る。友人とランチをすることもあれば、新作のブランド品のショッピングに出掛けることもある。今日は、ネイルサロンに行ったあと、今月の奥さま会の際に飾っておくインテリアや生花、オードブルなどの選定をしなければいけなかった。
タワマンの最上階に住む麻美は、月に1度、他のフロアの奥さまがたに声をかけて“奥さま会”を実施している。これも麻美の使命だ。最上階に住む以上、そのマンションの顔として、みんなをまとめる義務があった。それなりに納得のいくインテリアを注文し、奥さま会の前日に自宅へ届くよう手配をする。もちろん支払いは、宗尊名義のカードで行った。
自宅に戻ったあとは、ハウスキーパーからその日の業務の報告を受け、チップとして1万円札を渡す。きれいにクリーニングされたソファに横になりながら、今朝の投稿についたコメントといいねを確認する。夕方になって帰ってきた息子に宿題をやらせ、夕食は配達で届いたものを有名ブランドの食器に入れ替える。3人で食卓を囲み、21時過ぎに息子が眠ってしまえばあとは夫婦の時間になる。
「ねえ、聞いてよ。今日さ、また受付のところに三橋って人がいたのよ。私、あれだけ注意したのに、まだ愛想が悪いままでさ」
マンションの入り口にはエントランスがあり、そこにはコンシェルジュが毎日立っている。
「……前にもその話をして、管理会社に文句も言ったんだろ? じゃあ別にいいじゃないか? あの人だって精いっぱいやってるよ」
「そんなんじゃダメよ。あそこはうちのマンションの顔なのよ。あんな感じで対応してたら、うちが品のないところみたいじゃない」
麻美が怒りを言葉にしても、宗尊は全く乗ってこなかった。
「だとしても、うちには関係ないって。このマンションがどう思われてもいいじゃないか」
「ダメよ! 私たちはこのマンションの最上階に住んでるのよ! 1番、偉い私たちがそこはしっかり言わないとダメよ!」
宗尊は手で顔を押さえる。
「マンションの階数で偉いとかないって……」
「あなたは普段、仕事をしているから分からないのよ。私たちは最上階に住んでるっていうので、周りからそういう目で見られてるのよ」
麻美が訴えても、宗尊はあきれたようにため息をつくだけだった。