<前編のあらすじ>
夏休みを利用して、友人夫婦たちと河原でバーベキューをしていた真理奈(28歳)。直前まで雨が降っていたが、天候にも恵まれ楽しい時間を過ごしていた。
子供たちは川の浅瀬で水遊びをしているが、息子の大貴(5歳)は川に入りたがらない。河原で飲酒をしていた夫の佑介(30歳)は、「男らしく勇気を出してみろ、溺れやしないぞ」とい言い、川の中へ入っていき、大貴にも勇気を出して川に入るよう強い口調で促しだした。
そんな折、流木が流れてきてバランスを崩した佑介が転倒してしまう。直後に雨の影響で一気に増水した川に流されてしまう……。
●前編:「川に入るの嫌」怖がる息子にしびれを切らし、川へ入った夫を襲った「あり得ない悲劇」
信じられない悪夢
「佑介―! 佑介―!」
真理奈と友人たちの悲痛な叫びが河原に響いた。しかしどれだけ叫んでも佑介の姿は見えなかった。ここは山あいにある河原で、かなり上流に位置している。1番深いところでも佑介の膝より少し上くらいの深さしかない川で、いくら水かさが増したからと言って、大の大人が溺れたりするはずがない。真理奈がいくらそう思おうとしても、目の前の現実は非情だった。
「パパー!」
大貴は普段は出さないような大声で叫びながら、あれだけ怖がっていた水辺に近づこうとしていた。真理奈は自分も川に飛び込んで佑介を助けたい気持ちをグッと堪えて、大貴をきつく抱きかかえて制止した。
川の水は一気に勢いを増していて、つい先ほどまで真理奈たちがバーベキューを楽しんでいた河原は水浸しになっている。真理奈は祈るような気持ちでスマホを取り出した。