雨の中の捜索

震える手で119番通報をして間もなく、消防のレスキュー隊が現場に駆けつけ、川に流された佑介の捜索を開始した。見るからに屈強なレスキュー隊員たちは、地形や流速をもとに素早く佑介の現在地を予測していく。そして、佑介が流れ着いた可能性の高いポイントを中心に懸命の捜索活動が行われた。到着した隊員らは全員、エキスパートと呼ぶにふさわしい迅速な対応をしてくれたが、状況が状況だけに真理奈の緊張が和らぐことはなかった。

刻一刻と時間だけが過ぎていき、しまいには再び雨も降り出した。これ以上川が増水したら、佑介はどうなってしまうのだろうか。そう考えるだけで震えが止まらなかった。

「いたぞ、いた! いたぞ!」

雨の中、傘もささずに祈り続ける真理奈の耳に、レスキュー隊員たちの声が聞こえた。顔を上げると、隊員たちはあわただしく確認しながら、川岸のある1カ所へと集まっていく。

彼らの動きを目で追った真理奈に見えたのは、川岸から伸びる木に必死にしがみついている佑介の姿があった。

佑介は生きている。

そう分かった瞬間、真理奈は思わず駆け出した。

「佑介ー! 絶対に離さないでっ!」

真理奈は大声で叫んだが、濁流に襲われる佑介には聞こえているはずもなかった。不安に身も心も引き裂かれてしまいそうになりながらも、真理奈はひたすらに祈り続ける。

やがてレスキュー隊員たちは、ロープや浮袋を駆使して安全を確保した上で、佑介の身体を慎重に水中から川岸へと見事に引き上げた。

水から上げられた佑介は、青ざめた顔でぐったりしていたが、意識はしっかりしている様子だった。しかし転倒した際に足を骨折してしまっていたらしく、担架に乗せられて救急車で病院に搬送された。

ひと通りの処置が終わって落ち着いたあと、佑介は酒に酔った状態で、しかも素足にビーチサンダルという軽装で川に入ったこと、雨の影響で増水の予兆があったにも関わらず川で遊んでいたことについて、警察から厳しく注意を受けた。

佑介はまさか自分がこんな大事を引き起こしてしまうとは思っていなかったらしく、かなり気落ちした様子でいた。とはいえ、うかつだったことは間違いなく、軽率だったのは佑介だけではない。しかし今はこうして命が助かったことが何よりもうれしかった。