会話のない熟年夫婦

夕食は2人そろってご飯を食べる。

しかしなんとなくの惰性で続いている習慣なので、諒子との会話はない。最初はこうではなかったような気がするが、一体いつからこうなってしまったのか、郁夫は覚えてすらいない。

仕事ばかりをしていて、家庭を顧みなかった。郁夫はそれが当たり前だと思っていたが、諒子との関係は冷え切ってしまっていた。

「な、なあ、諒子?」

「何?」

諒子は目線を伏せたまま、みそ汁を飲んでいた。話しかけてみたものの、何を話したらいいのかは分からず、そこで話は終わった。

あまりに冷たい態度に、不意の怒りが湧いた。しかし郁夫にはいら立つ資格すらもない。郁夫だって、話しかけてくる諒子をさんざん冷たくあしらってきた。仕事を理由に約束をほごにしたことだって片手では数えきれなかった。

郁夫たち夫婦がこうなってしまったのも、すべて郁夫のせいなのだ。今更になってそのことを後悔しても、何もかもが遅かった。