大学の都心回帰で状況が一変
今、世帯の年金額は終身の個人年金保険も合わせて手取り25万円ほどです。さらに、わが家には家賃収入もあります。千葉県内の私の実家を、両親亡き後にワンルームのアパートにして賃貸経営を行っているのです。同じ広さの居室が1階と2階合わせて6室あり、満室なら30万円の家賃収入が得られます。
不動産は実物資産でよほどのことがない限り無価値になることはありませんし、株式などと比べると値動きも穏やかですから、堅物の私たちに向いた投資だと思いました。
私も妻も特段金のかかる趣味があるわけでもなく、普段の食事は一汁一菜で十分という性分ですから、地道に暮らしていれば、年に1度くらいは妻を海外旅行に連れていってやれると考えていました。
そうした老後の計画に狂いが生じたのは、私が定年を迎え、継続雇用で働いている頃でした。実家のあるエリアは文教地区として知られ、大学のキャンパスが幾つかありました。そこで学生を対象にしたワンルームの賃貸アパート経営を考えたわけですが、この頃から大学の都心回帰が始まり、複数のキャンパスの移転が相次いだのです。
私が完全リタイアした頃にはキャンパス移転の影響が出始め、アパートに空室がぼちぼち出るようになりました。アパート経営を始めた頃と比べると、周辺にはワンルームマンションも増えています。私のアパートは築15年超ですから、こぎれいで快適なワンルームマンションと比べると、どうしても見劣りがしてしまいます。
管理をお願いしている不動産会社の助言で家賃や礼金を見直したりしましたが、効果は限定的で、今は2室が空室になっています。ローンや固定資産税、管理代などを支払うと、手元には1カ月当たり数万円しか残りません。
正直、これは誤算でした。しかも、移転の流れは止まらず、昨年には有名私大が都心にキャンパスを移転することを発表しました。私のアパートはこのキャンパスから近い地域にあり、現在の入居者のうち2人もここの学生です。このキャンパスが移転してしまうと、アパートの経営状況はさらに悪化すること必至です。一方で、近年の不動産市場の値上がりを受けて固定資産税は毎年着実に上がっています。
不労所得が減ってしまうのに加え、アパートを建てる際に借り入れたローンの返済がまだ10年以上残っていて、将来にわたって返済していけるのかどうか不安しかありません。一時は手放すことも検討したものの、アパートの評価額がローン残高を下回っていて、売却を決断するには至りませんでした。
大学の移転によるアパートの経営状況の悪化も想定外でしたが、わが家の老後計画の誤算はそれだけでは収まりませんでした。2年ほど前からはもう1つ、ある意味、アパート経営よりもインパクトの大きな誤算が生じています。結婚して家を出ていた下の娘が、就学前の幼子を連れて戻ってきたのです。
●山口さん夫婦に、次々と起こる老後のライフプランの誤算。次女が出戻ってきてからの夫婦の生活はどうなるのでしょうか? 後編【「ずっと実家に居座るから」年金で暮らす老夫婦の“安心老後”を狂わせた無職の娘の「衝撃発言」】で詳説します。
※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。