催告の日

「強制執行の通知」を投函後も、横井夫妻とは連絡がとれず状況が分からないままです。そのまま、とうとう催告の当日を迎えました。

技術者、補助者、立会人と合流すると、建物の片隅で概要の説明を済ませます。技術者いわく「このマンションの玄関ドアの解錠は、かなり難しいですよ」とのこと。最新式のセキュリティであり、普段通りのピッキングでは解錠は困難。もし横井夫妻が不在の場合、玄関先で鍵穴を調査して新たに鍵を製作する必要があるということでした。

しばらくすると執行官が到着し、関係者で20階の居室に向かいます。フロアへ出ると突然強烈な風が吹きつけ、これから起こる何かを予感させるようでした。

執行官がインターフォンを押しドアをノックすると、しばらくしてインターフォン越しに「どなたですか?」と女性の声。

「裁判所の執行官です。玄関ドアを開けてください。詳しい内容は玄関内でお話します」

執行官が指示すると、そこでようやくドアが開きました。

綺麗な部屋に潜む違和感

「横井優香さんですね?」

執行官が質問すると、優香さんは「はい」とうなずきます。

「この住居は債権者より建物明渡強制執行の申立があり、本日、訪問しました。裁判所の判決により、建物を明け渡してください」

執行官が告げた訪問理由に対して、「何故ですか?」と優香さんは目を見開いて聞き返します。続いて債権者代理である私も説明を加えます。

「横井さんは、入居後、家賃等を全くお支払いになっていませんね。3カ月以上の滞納があり、裁判で判決が出ました。建物を明渡してください」

優香さんは「主人が払っていると思いますけど……」と答えますが、私は印刷した滞納状況を見せて家賃滞納の事実を説明しました。

「これから室内の荷物の量を確認します。執行官と債権者代理と補助者が入室するので、ご了解ください」

執行官から説明があり、いざ入室。室内はとても綺麗に整理整頓されて、まるでモデルルームのようでした。転勤が多いのか私物が少ないようです。

「本日の催告では、金品等の差押えはしません。ただし、●月●日●時より強制執行、つまり“断行”をおこないます。前日の●日までに、全ての私物を搬出し部屋の鍵を債権者に返してください」

執行官が説明した後、指定の日に断行を行うことを示した「催告書」が優香さんに手渡され、公示書を玄関の壁(カレンダーの下)に貼り付けました。優香さんの署名・捺印をもらって催告は完了しました。

ただ、私はこの時ある違和感に気付きました。ご主人は出張中のようでしたが、リビングには5台のスマートフォンが充電され、玄関には男物のスポーツシューズと革靴。そして何より債務者である優香さんは綺麗なワンピースにオレンジ色のネイル。まるで今の今まで人と会っていたかのような姿だったことです。

●いよいよ断行(強制執行)の日を迎える横井夫妻。ところが当日在宅していたのは何も事情を知らない様子の拓也さん1人だけ……。後編【タワマンから不幸の底へ急転直下…家賃滞納5カ月で強制退去、判明した妻の「二重の裏切り」】で詳説します。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。