ユキのおかげで気づいたこと

家に帰り、恵美は和幸に気になったことを聞いた。

「何で、あんなに慣れてたの?」

「だって昔、うちで犬を飼ってたから」

「え、そうだっけ⁉」

「そうだよ。だから昔は2人でペットショップ巡りとかしてただろ」

和幸に言われて、恵美はそのときのことを思い出した。

「ごめんなさい、忘れてたわ……」

「そら、もう20年以上前の話だからな」

そこで恵美は記憶のすりあわせをするように昔話をする。和幸は恵美が驚くほど、昔のことを覚えていた。

そして恵美はあることに気付く。

「なんかさ、昔ってあなた、魚ばっかり食べてた記憶があるんだけど。好みは変わったの?」

「いいや、今でも魚が好きだよ。刺し身が1番好きだから」

「あれ、じゃあなんでお肉ばっかり食べてるんだっけ?」

「それは透や良介に合わせてたからだよ。俺は別に要望してない」

それを聞き、恵美は驚いた。そして笑ってしまった。

「もう、それなら先に言ってよね! あなたが好きだと思ってた!」

「いや、別に、嫌いってわけでもないし。あいつらもうまそうに食べたからな」

和幸は照れくさそうにそう話した。

そうだ、この人は自分よりも周りのことを考えてしまう人だった。そんな優しい人だから、恵美は結婚をしようと思ったのだ。

「ねえ、あなた。ありがとうね」

「何が?」

「ユキのこと、私1人だったら、焦っちゃってダメだった」

「2人で育てるって決めた犬だろう」

和幸は事もなげにそう言ってくれた。

この人は何も変わってない。変わっていたのは自分だったんだと恵美が気付いた。

家族旅行

それからも2人は協力しながらユキの面倒を見た。

動物病院での定期検診や散歩などは和幸が行い、しつけや餌やり、ブラッシングなどのケアを恵美が担当した。

こうして負担がなくなったことで、恵美は余裕を持ってユキと接することができるようになった。

さらに思いもよらなかったのが夫婦の会話が増えたことだ。

ユキに関することの会話が増え、今では何てことない世間話までできるようになった。

だから自然と、リビングでユキをなでている和幸に向けて恵美は提案することができた。

「ねえ、ここの温泉旅館って、ペットも同伴可能なんだって。今度の休みに行ってみない?」

それに対して和幸は笑って答えた。

「いいね。楽しそうだ」

きっと和幸はこの提案の裏に隠された気持ちを知らない。

その日は2人の結婚記念日であり、久方ぶりの旅行になるのだ。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。