いきものを飼うことの大変さ
それから2週間後、仁美が家まで犬を連れてやってきてくれた。
玄関先で仁美は犬を見せてくれる。手持ちのケージからよたよたと出てきたのは真っ白い毛に覆われた小さな犬だった。
恵美はその瞬間に、名前を「ユキ」にしようと決めた。
「かわいい~。写真で見るより、実物のほうがいいわ~」
「うん。けっこう人懐っこい子だから。すぐに仲良くなれるわ」
仁美が言い終わる前に、ユキは恵美の膝に近づいて来た。そして恵美はユキを抱き寄せる。
小さくて温かい。思わず笑顔がこぼれた。
するとリビングにいた和幸もひょっこりと顔を出す。
恵美は思わず笑ってユキの顔を見せた。
「ねえ、あなた、みて。とってもかわいいわよ」
その瞬間、和幸はふっと笑った。
「ああ、本当だな」
仁美は和幸にあいさつをする。
そして仁美から飼う上での注意を幾つも教えてもらった。恵美と和幸は並んでその話を真剣に聞いた。
そこからユキとの幸せな生活が始まるものと思っていたが、犬との暮らしは恵美が思っている以上に大変なものだった。
「ああ、また……」
リビングの床に小さな水たまりができている。恵美はそれをティッシュで拭き取る。そして離れた所でその光景を見ているユキに声をかける。
「おしっこはシートの上でしなさいっていつも言ってるでしょ」
そう言って恵美はユキをシートの上にのせる。
「おしっこはここ。分かった?」
しかしユキはただこちらを見ているだけで反応はしてくれない。ユキにトイレを覚えさせるのはとても骨だった。仁美に相談をしたのだが、辛抱強く教え続けるしかないと言われてしまった。
ユキはかわいいのだが、しつけがこんなに大変だとは思わなかった。さらに大きくなると、外での散歩も必要になってくる。
そして恵美は少しずつ安請け合いをしてしまったことを後悔するようになっていく。