価値観の違いを感じる出来事
コロナ禍を経て、諒太は大きく変わりました。きっかけは投資を始めたことです。同世代の投資系YouTuberの動画に刺激されて株式を購入し、それが大きく値上がりしたことから、すっかりのめり込んでしまったのです。
投資に回す資金を捻出するために食事や光熱費を極限まで減らし、それだけでは足りずに終業後や休日に飲食店でアルバイトまで始め、毎月10万円以上割安株や投資信託に注ぎ込んでいました。やがて自分でもYouTubeで投資に関する発信をするようになり、私にも同様に投資することを求めてきました。
「少子高齢化の日本に先はない。俺たちの世代は将来年金もほとんどもらえないから、豊かな人生を送るためには長期的な資産形成が欠かせない。投資は俺たちにとって最高の自己投資なんだよ」
ご高説はごもっともですが、私の投資額が全然足りないと言って家計簿アプリを頻繁にチェックし、「無駄遣いが多過ぎ。なんでこんなにコンビニで買い物すんの? そもそも、コンビニなんて行く必要ないでしょ」などと小言を言われるたびにげんなりしました。
せっかくコロナが開けたのに旅行も外食もせず、週末はぎっしりアルバイトを入れている諒太に対しては、「そんな生活、何が楽しいの?」という反発しかありませんでした。私は将来に向けて自分磨きもしたいし、会社の同僚や学生時代の友人たちと食事や旅行を楽しみたい。今しかできないことがたくさんあると考えていたのです。
諒太にこういう話をすると、「麻美は全然分かってない」とけんかになりました。諒太は徹底的に相手を論破するタイプ。私も負けず嫌いな性格なのでお互いが譲らず、さんざん言い争った末に最後は疲れてうやむやに終わるという不毛な議論を何度も繰り返していました。
ですから、諒太と会っていてもちっとも楽しくなく、私の方から別れを切り出しました。以降、私の中では投資がトラウマになりました。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いという感じです。