SNSが感情のはけ口に

商品の写真を撮り、それを画像ソフトで加工し、キャッチコピーで装飾する。客から問い合わせがあればそれにも対応するし、目玉商品はSNSで告知する。限られた人数で運営しているネットショップでは、社員がマルチタスクでさまざまな業務をこなしていく必要があった。手際良く業務を進めながら、映見は時折スマホを開く。そして「ノージョブ夫の飼育日記」に寄せられたリアクションをチェックする。朝の投稿にたいする「いいね!」はもうすぐ50に達しようとしていた。

昼休み中、夫から連絡があった。

「スーパーで豚肉が安かったら買っておいたよ~」

失業してから、夫は「〇〇が安かったから買っておいた」という連絡を頻繁にくれるようになった。時間のある夫が毎日の買い物を担当してくれるのは助かるのだけれど、まるで「自分は立派な主夫です」と自己主張されているような気がして不愉快だった。今日こそ自分の気持ちをストレートに伝えてやろうかと思ったが、それは止めておいた。

『夫、今日も「安かったから買っておいた」と連絡をよこす。このアピールうざすぎて気絶しそう。頼むから消えてくれ』

夫に自分の気持ちを伝える代わりに「ノージョブ夫の飼育日記」に感情を吐露する。ありがたく思えよ。お前に哀れみをかけて、面と向かってきついことを言わないでやってるんだから。夫に対する呪詛(じゅそ)の言葉を投稿しながら、映見は意地悪な笑顔を浮かべていた。

投稿して気持ちをすっきりさせたおかげで、午後からの仕事ははかどった。上司からも撮影した写真をほめられた。大変なこともあるけれど、やっぱり仕事は楽しい。毎日家でゴロゴロしている誰かさんは仕事をする喜びを忘れてしまったみたいだけれど。

●夫に対するストレスが積もっていく映見、このまま無職の夫に耐え続けていけるのか? 後編【“垢バレ”で結婚生活が破綻… 温厚な夫がブチ切れた「投稿の内容」とは?にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。