増岡の過去と現在

清水には怒ってみせたが、蛇の道は蛇とは言い得て妙だと思う。

10代の頃は半グレと付き合いがあり、警察の世話になったのも1回や2回では済まない。その俺が20歳でデキ婚、この一帯の地主である妻の家の籍に入り、義父の仕事を手伝うようになった。運転手からスタートして20余年、今は義父が経営する不動産会社の専務の座に収まっている。

しかし、義父の子飼いばかりの会社はいささか居心地が悪く、毎日日が傾く時間になると、一番若手の清水とこうして地元のスナックに繰り出し、おだを上げているというわけだ。

「そう言えば拓海さん、来年は就職すよね? ここに来るんすか?」

早いもので、長男の拓海は来春大学を卒業する。

「アメリカで語学学校に通った後、大学院に進んでMBA(経営学修士)を取りたいと言ってる。本当にどいつもこいつも金ばかりかかって……」

次男の蒼空も2年後には大学受験だ。蒼空は獣医学部志望らしい。北海道大学の獣医学部を出て釧路の動物病院に勤務する、家庭教師の佐伯さんの息子(※)に憧れているのだ。
※佐伯一家の詳細:【「一人息子のために…」中年夫婦にタワマン購入を決意させた“一方通行な愛情”】

 

このマンションのオーナーである佐伯さんは、義母が同じ国立市の出身ということから親しくなったと聞いた。数年前まで都内の有名校で校長を務めていただけに教え方がうまく、拓海は佐伯さんのおかげで第一志望の明治大学に受かったようなものだ。気難しい蒼空も、佐伯さんにはすっかりなついている。

「とにかく、河合には目を光らせておけよ」

そろそろ21時だ。清水に念を押すと、席を立った。