施設にかかる高いコスト

問題はその施設にかかるコストです。

私の住む地方は高齢化がピークに達し、隣近所を見渡しても同世代の高齢者世帯ばかりです。そのため、特別養護老人ホームやグループホームといった低料金で利用できるような施設はどこも順番待ちの状態。すぐに入れるところと言えば民間の老人ホームしかありません。

ケアマネジャーが近隣のホームの入居案内をいくつか取り寄せてくれたのですが、いずれも何百万円という入居金に加え、月額20万円近い費用がかかります。わが家の収入や蓄えではとても手が届きません。

息子たちは2人ともマイホームを購入したばかり。これから孫たちの教育費もかかるでしょうし、とても援助を切り出せる状態ではありません。私自身が働いて収入を得る手もありますが、現役を離れて10年以上経つ老兵が稼げる額などたかが知れています。

ようやく見つけた理想の施設だったが…

ケアマネジャーはわが家の事情を汲んで、今の居住地からかなり離れた過疎地の特別養護老人ホームを紹介してくれました。

妻を連れて見学に出掛けたところ、思いのほか新しく掃除も行き届いた施設で、何より若い介護スタッフの方々がてきぱきと働いている姿が印象的でした。入居者の顔も生き生きと輝いて見えました。

お金のことを考えると他に選択肢もなく、妻をその特別養護老人ホームに入居させることに決めました。自宅からは電車やバスを乗り継いで2時間近くかかります。交通費もかさむので、そう頻繁に顔を見に行けませんが、あの環境とあのスタッフなら、安心して妻を任せられると思いました。

しかし、妻の実家を継いだ義弟に電話で報告したところ「課長まで務めた人が、嫁をそんな過疎地のホームにやるんかね」と毒づかれ、苦々しい気持ちになりました。妻の実家は代々続く農家です。土地持ちで、首都圏から移転した企業に工場用地を貸していて、それなりの収入もあるようです。

義弟に頭を下げれば妻を近くの老人ホームに入れてやれたのでしょうが、それは“地元の名士”を気取る義弟と距離を置いていた妻の本意でもないと思い、ハナから当てにはしていませんでした。