母と八重子さんのやり取り
「叔母さんとはコロナになる少し前に病院で再会したんです。本当に久しぶりでした。その時に叔母さんがご飯をごちそうしてくれて、『兄さんにお菓子でも買っていって』と1万円もらいました。それから時々、叔母さんを訪ねるようになったんです」
母が通販で買った洋服が素敵で自分も欲しいと思ったが、お金がなかった。それを母に話したら、「八重ちゃん、大変なんだね。これ持っていき」と10万円くれた。
足を痛めたことで外出がしづらくなった母に頼まれて買い物や支払い、預金の引き出しを代行するようになり、下ろしたお金を母のもとに持っていく際、「私にもちょっとくれないかな」と聞いたら、「いいよ」と言われた。
それから、母の生活費を引き出す際、自分用にも10万円、20万円とまとまった額をもらっておくようになった。
「叔母さんから、昇ちゃんはコロナ対応で忙しくて全然帰ってこられないと聞いていました。昇ちゃんの代わりに叔母さんの面倒を見ているわけだし、これくらいもらってもバチは当たらないと思いました」
いけしゃあしゃあと言い訳を並べる八重子さんに、はらわたが煮え返る思いでした。
800万円の行方
「それにしたって800万円はもらい過ぎではありませんか? それに、その都度、叔母様に確認したわけではないのでしょう?」
南さんが厳しく詰め寄ると、八重子さんは涙を流しながら、800万円は全額返すと約束しました。聞けば、母のお金にはほとんど手を着けていなかったようです。
「家ではこの年まで独身の私は厄介者扱いで、年を取って農作業の手伝いができなくなったら出ていけと言われるんじゃないかとずっと不安でした。ですから、1000万円貯まったら家を出て、隣町に新しくできた高齢者施設に入ろうと思っていたんです」
800万円という大金が無事に母のもとへ戻ってくると分かり、全身から力が抜けていくのを感じました。
帰途、改めて南さんにお礼を言うと、「今回の件、お母様のことを放置していた西崎さんにも責任の一端があることは自覚しておいてくださいね」と釘を刺され、背筋が伸びる思いでした。