なぜ、手数料無料化を急ぐのか?

なぜ、それほど急いでコトを進めようとするのか? それは、超低金利時代が継続し、過去30年以上にわたって続いてきたデフレ(物価下落)経済が終焉(しゅうえん)するとともに、インフレ(物価上昇)の波が起きていること。そして、現在の岸田文雄政権がめざす「資産所得倍増プラン」の推進役として「新NISA」が2024年1月にスタートすることとなり、「貯蓄から資産形成へ」の流れを国策として推進しようとしていること。加えて、日本株の上昇など、さまざまな要素がこのタイミングに集まってきていることが大きな要因だろう。

SBI証券の口座数は2023年3月末時点で1,003万8,000口座となり、第2位の楽天証券の864万7,000口座を大きく引き離している。2020年6月に野村證券(23年3月末時点で残高のある口座数は535万3,000口座)を抜いて業界トップに立ってから、ぐんぐんと新規口座獲得を伸ばし、ついに1,000万口座の大台をクリアした。証券界全体の口座数は2023年3月末時点で3,335万5,193口座(うち個人は3,285万4,963口座)になっている。実に、国内の証券口座の約30%をSBI証券が占めていることになる。これほどの支持を得ているのは、圧倒的なコスト競争力であり、インターネットの武器を最大限に生かした結果といえる。そのSBI証券が仕掛ける株式売買手数料の無料化は、手数料自由化の最終段階に入ったことを告げる。「Winner takes all」の原則が証券各社の耳に不気味に響いているのではないだろうか。

 

出所:各社決算資料に基づき著者作成。楽天は2022年12月末時点。野村と大和は残高がある口座数

文/ 徳永 浩