前編『払わないと受信料が2倍に? NHKが「スマホからも受信料徴収」したいワケ』では、同社の歴史や成り立ちから、議論が尽きない受信料制度やデジタルシフトについて触れてきた。後編では今後のネット事業展開における懸念点や総務省から要請されている改革内容などについて解説していく。
ネット進出で民間メディアを圧迫する恐れも
「生き残りを懸けた努力がまさに問われている」ーー。昨今のデジタル化の大きなうねりに多くの企業が翻弄(ほんろう)されるなか、NHK(日本放送協会)も例外ではないと発言したのは、2023年からNHK新会長として就任した稲葉延雄氏だ。
インターネット領域に意欲を見せる稲葉会長のもと、NHKは新たな船出を迎えた。先に述べた有識者会議の2023年2月における会合では、インターネット活用業務について、地上波放送と同じ必須業務に格上げする議論が本格化してきた。
ただしネット事業拡大にあたっては、検討すべき課題がいくつか存在する。主な論点は民間市場の混乱を招き、民業を圧迫する恐れについてだ。
安定財源である受信料収入に支えられたNHKは、民間企業より事業環境において優位といえる。そんな組織がインターネットメディアとして本格参入すれば、既存のメディア業界の勢力図を一変させかねない。そのようなリスクを冒してまで、非営利であるNHKが通信領域へさらに手を広げる必要があるのか、疑問の声は多い。
また、ネット事業の推進によって業務肥大化が進むのではないかとの懸念などもある。ネット配信だからといって供給コンテンツの範囲を拡大していけば、いたずらに経営コストの増加を招きかねない。