インターネット時代、NHKの存在意義が改めて問われる

このようなネット事業拡大の妥当性、ならびに三位一体改革の進展を検証していくうえで欠かせないのが、「公共放送のありかたとは何か?」という根本的な問いだ。

例えば不偏不党を旨とするNHKが、自身の放送事業において強調する「情報の信頼性」。NHKはネット事業推進によって、「フェイクニュース、フィルターバブル(情報摂取の偏り)といった懸念を抱えるインターネットユーザーに対して、貢献余地がある」としている。

一方で相対する意見として「民放・新聞など、一定の信頼を置ける従来メディアも、インターネットを通じて発信している。NHKは従来のテレビ放送を続けていれば問題ない」との声がある。このようにインターネット時代を踏まえ、改めて公共放送が、ほかのメディアとどう差別化がなされていくべきか議論する段階にきているのだ。

また、「三位一体改革」の受信料に関していえば、ネット事業と従来の受信料制度との関係性の整理も必要だ。冒頭で述べた有識者会議での「スマホ所持でも受信料」検討も取り組みの一環といえる。

今後もし、NHKのネット事業にまつわる受信料制度が新たに整備されるならば、比較対象となりうるのは民間の動画サブスクリプションサービスだろう。「民間の定額サービスは任意で解約できるのに、NHKの配信は解約できないのか」などの議論も想定される。NHK受信料が単なる視聴の対価ではなく、公共財として国民が公平に負担するべき費用であるとのコンセンサスの形成が改めて必要だ。

以上を踏まえると、NHKのネット事業推進は、自身の存在意義を再定義する取り組みともいえる。そのプロセスには総務省の適切な意見のほか、国民の代表機関である国会の予算承認などが必要となる。われわれ国民も世論形成の面において、取り組みの妥当性を積極的に議論すべきときがきている。

文/藤田陽司(ペロンパワークス)