自分たちの財産が「全てもっていかれる」屈辱

「私たちはどうなるの? 和也の財産はほとんど、私たちが生前贈与したものでしょう? 和也が先に逝ってしまったら、私たちのところに戻ってこないなんておかしいわ。そもそも『計画的に生前贈与をしておいた方がいい』と勧めたのは、諸星さん、あなたじゃないの?」

私が詰め寄ると、諸星さんは下を向いて黙り込んでしまいました。

「せめて和也に遺言書でも書かせておけばなぁ。蒼空が遺留分を請求してきたとしても、半分取られるだけで済んだわけだろ?」。主人の言葉に諸星さんはいかにも気まずそうに言い訳を並べ立てました。

「和也さんはまだ30代ですし、メディカルチェックでも特に問題はなかったと聞いています。まさか、こんな亡くなり方をするとは思わず、遺言はもう少し時間をかけて作成しようと考えていたんです」

とはいえ、起こったことは起こったこと。時計の針を巻き戻すことはできません。

和也が勤務先で倒れ、搬送された病院で亡くなったと連絡があったのは2021年春のこと。死因は脳出血でした。和也は身長190センチ近い偉丈夫で、学生時代はラグビーに打ち込んでいました。健康を絵に描いたようなその姿から、このような人生の最期を迎えるなど想像もしていませんでした。

一人息子を失ったこと以上にショックだったのが、諸星さんから、和也の財産は法律上、実子である蒼空に全て引き継がれることになると聞かされたことです。手広く事業をやっていた主人にはそれなりの財産があり、相続税対策として時間をかけて和也に贈与してきたのです。和也が亡くなる1年前には、自宅を和也の名義に書き換えたばかりでした。それも、蒼空の手に渡ってしまうというのです。