相内奈津子さん(仮名、以下同)は地元では名の知れた飲食店グループを一代で築いた夫を40年近く支えてきました。還暦を過ぎた夫が事業を腹心の部下に任せて引退し、「これからは奈津子とゆっくり海外旅行に行ったり、好きなスキーを楽しんだりしよう」と言うのを聞いて、これまでの人生のご褒美のような老後を楽しみにしていました。そんな計画に水を差したのが、一人息子・和也さんの急死です。

都内の広告代理店で働く和也さんにいずれグループを引き継がせようと、少しずつ個人の財産を和也さんに移転していた矢先でした。和也さんには離婚した前妻との間に血を分けた中学生の息子がおり、和也さんが亡くなると、その息子が唯一の相続人として和也さんの遺産を引き継ぐことになります。

「和也の財産はほとんど私たちが生前贈与したもの。和也が先に逝ってしまったら、私たちのところに戻ってこないなんておかしいわ」という奈津子さんの思いは届かず、勝ち誇ったように現れた前妻が自宅を含めた財産のほとんどをさらっていきました。その結果、奈津子さん夫婦の老後プランには大きな狂いが生じます。前妻のことを「女狐」と評す奈津子さんに、詳しい経緯を聞きました。

〈相内奈津子さんプロフィール〉
静岡県在住
67歳
女性
専業主婦
元自営業の夫と2人暮らし
金融資産4500万円

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「これから相続の手続きに入ります。蒼空(そら)さんにご連絡を差し上げることになりますが、よろしいですね?」

長男の和也の葬儀を終えた夜、税理士の諸星さんの言葉に主人と顔を見合わせました。「伝えないわけにはいかないよな」。主人の独り言のようなつぶやきに、諸星さんは苦虫をかみつぶしたような表情で「現時点では和也さんの唯一の相続人ということになりますから、お伝えせざるを得ないでしょう」と返してきました。

蒼空は和也の前妻との間の子供で、私たちは2人が離婚してから10年近く会っていないし、手紙一つもらったこともありません。それなのに、その後再婚しなかった和也が亡くなると、相続法上は蒼空が唯一の相続人となり、和也の全財産を引き継ぐ権利を有するというのです。