実母の死で父と疎遠に…その父が認知症を発症

父との関係が疎遠になった要因の1つに、実母の死があります。母は私が高校生の頃に突然難病を患い、そのまま亡くなってしまいました。幼少時から要領の悪い私をかばい、優しい言葉で慰めてくれた母は、祖父母を含め厳格な教育者一族のわが家における唯一の理解者でした。しかし、その母の死から1年後、父は祖父母の強い勧めもあって再婚したのです。家の中に自分の居場所がないような気がし、私は逃げるようにして都内の大学に進学しました。35年近く前の話です。

私は現在埼玉県内に住んでいますが、仕事柄転勤が多く、入社以来、新潟、仙台、札幌などの支店を転々としてきました。それもあって、実家に帰るのはお盆休みと年末年始の年2回が定番で、管理職になって仕事が忙しくなり、子供たちも大きくなったことから、さらに足が遠のいていました。

継母から父が認知症かもしれないという話を聞いたのは、そんな矢先のことです。80歳を超えた頃から好きなゴルフもとんとご無沙汰で「親父も年を取ったな」と思っていましたが、月に1~2度電話で話をする分には特に変わったところもなく、青天の霹靂でした。しかし、その後付き添って受診した地元の病院の認知症外来では、「アミロイドβが相当量蓄積している。アルツハイマー病が進行した状態です」と言われました。やがて夜中に近所を徘徊するようになり、継母が「私一人ではとても面倒を見切れない」と音を上げたことから介護施設への入居が決まりました。

実は、親しくしている同僚のお父さんもアルツハイマー病で亡くなっており、同僚からは介護や金銭管理が大変だという愚痴をさんざん聞かされていました。それもあって、父の施設への入居が決まった時、継母にこんな話をしたのです。

「会社の同僚のお父さんが認知症だったんだけど、認知症だということが分かると金融機関の口座が凍結されて大変だったらしいよ。その後、成年後見の制度を使ったら、今度は弁護士さんが預金通帳をごっそり持っていってしまって、お父さん名義のお金がほとんど使えなくなったとこぼしてた」。継母は「そんなことってあるの?」と驚いた顔をしていました。