人生100年時代―今後、家族信託は増えていく

「信託」も「家族信託」も聞き慣れない……という方も多いかもしれません。

信託はひと言でいえば、信託の引き受け手である受託者が、信託を引き受けて信託された財産の管理・処分を行う財産の管理と承継を行う仕組みです。

信託の引き受けを営業として行うには、内閣総理大臣の免許や登録が必要なのですが、親の財産を子が引き受けて管理することに利用される「家族信託」は、受託者の家族は免許や登録の必要がありません。そして、多くの家族信託では、高齢になった親の資産を子が管理するために利用されています。

高齢になった親の認知判断能力が弱くなってきたことを感じると、親の認知症の不安を感じる人も多いと思います。厚生労働省によると、2025年には、認知症高齢者の数は700万人、65歳以上の高齢者の5人に1人に達するといわれています(認知症施策推進総合戦略〈新オレンジプラン〉)。

親がこうした判断能力を欠くような状態になってしまうと、その親が所有する財産の取引を本人が行えなくなります。2020年、法律行為の当事者が意思表示をしたときに意思能力がなかった場合には、その法律行為は無効とする民法改正がありました(民法第3条の2)。

親の認知判断能力の低下に備え、事前の準備がなければ、親の財産を家族が代理して取引することもできません。親が介護施設に入所するために親の預金を家族が引き出そうとしても、金融機関は本人以外の取引には応じてくれないため、預金を引き出すことができません。その結果、最悪のケースとしては子が親の介護施設費を払い続け、子が困窮する事態にもなりかねません。

このような背景から、家族信託を利用して高齢になる親の資産管理を子が行っていくということが今後増えていくと思われます。筆者の経験から、家族信託の利用者は、親の年齢が70~80歳代、子の年齢が40~50歳代といった方々が多いです。

信託は、親が信託する財産を子に移転することが必要です。子は親から信託された財産を親の福祉を確保するために管理します。財産を子に移転することや、親のために子が財産管理をすることなどから、家族信託は親と子の“厚い信頼関係”があることが必要です。