前回(「住まない自宅」放置で近隣紛争も…家族で決めたい“我が家の最期”)は、家族の財産を守り継承していく40~60歳代のミドル世代が、親亡き後の自宅の行方をどうするのか、親の生前に家族で話し合う必要性について解説しました。

今回は、親が保有する金融商品の管理と相続への対策について説明します。

高齢者が金融商品を管理することの難しさ

高齢になった親が金融商品を保有している場合、今後、親が自分だけで管理をしていくことは難しくなってきます。その原因は2つあり、1つは年とともに親自身の判断能力が衰えること、そしてもう1つは、親が高齢になると証券会社の取引時に制限がかかることです。

1.親自身の判断能力の低下

高齢になると誰しも判断する力が衰えていきます。全員が認知症になるわけではありませんが、2035年には65歳以上の3分の1が認知症患者になる可能性があると言われています。

親が認知症になってしまうと、以後、親が所有する金融商品の売却やポートフォリオの銘柄の入れ替えができなくなります。生活や療養のために金融商品を売却しなければならない時は、法定後見制度の利用が必要になるかもしれません。

筆者の元に相談に来られたお客様の中にも、急激に判断能力が衰えてしまった方がいました。判断能力の衰えが始まる年齢には個人差があるものの、親が一定の年齢、例えば80歳に達した時には、親が自分で金融商品を管理することは難しくなっていくと考え、金融商品の管理方法を子から相談し始めてください。

2.証券会社の取引時の制限

日本証券業協会では、『高齢顧客への勧誘による販売に係るガイドライン』を制定しています。このガイドラインでは、高齢顧客を定義し(※)、高齢顧客への勧誘による販売商品、勧誘を行う場所・方法、約定後の確認、モニタリングの5点について、会員の証券会社に社内規則を制定することを求めたものです。
※75歳以上を高齢顧客とし、80歳以上はより慎重な勧誘を行うべき顧客として区分

証券会社の営業社員は75歳、80歳を超えた顧客には社内規定に即した対応をしなければなりません。ですから、判断能力に問題がない方でも、高齢顧客として区分された顧客の取引には制限がかかってしまうのです。

高齢者にも資産運用は必要!

親が仕事を引退していて定期的な収入がない場合、生活資金が年金で補えなければ、所有する金融資産を取り崩して生活していくことになってしまいます。

そのため、リスクをとって価格変動の大きな金融商品を購入することは控えるべきですが、リスクが限定されて一定の金利や配当収入が得られるような金融商品の運用は、資産の取り崩し期間を長くして資産寿命を延ばすことにつながるので、「高齢者の金融資産の運用」という点については十分検討の余地があると考えています。

しかし、前述のように、親が認知症になる、または判断能力が大きく低下してきている場合は、親本人が取引するのは難しくなってしまうため、子は自分が代わりに取引ができる仕組みをあらかじめ検討しておくことが必要です。まずは、親に所有する資産の状況やリスク許容度を確認することから準備しましょう。