気がかりなのは、低リスクバランスは安全という幻想
「債券」は「株式」よりも価格変動幅であるリスクが小さいので、債券のウェートが高いバランス型投資信託は名前の最後に「安定型」とついていることが多いです。「安定」という言葉からなんとなく「安心」というイメージを抱いて運用商品として指定している方が少なくないのではないでしょうか。
実際にリーマンショックの時も、株式市場は国内も海外も半分というような大暴落を期しましたが、先進国の格付けの高い債券の値下がりは株式ほどには下がりませんでしたから、低リスクバランスの投資信託は1割程度の下落にとどまりました。景気の下支えとして金利は全般的にはひき下げられてきましたから、債券はそのたびに上昇し、低リスクバランスの投資信託の価格もこの20年で倍ぐらいになっています。保有している方と話すと「分散はしているし、株式の割合が少ないので大きな値上がりは期待できないけれど、安心・安全」、中には「値下がりの心配はない」とさえ思っている方もいるのが気がかりです。
欧米の金利が上がってきている現在、本来であれば、組み入れ割合が少ないながらも金利上昇による債券価格の下落メカニズムを学ぶことになる外国債券部分の価格が、欧米の国債価格が値下がりしているにもかかわらず値下がりしていません。それは、為替が1ドル=115円から138円と大幅な円安になっていることから、円ベースに換算すると欧米の債券価格が下がっていないためです。
低リスクバランスの運用資産はその半分が日本の公社債です。日本の金利は下げる余地がなく、債券価格の上昇は見込めません。日銀が方針転換し金利を上げる、または上がるだろうという観測が流れれば、日本の公社債は買い叩かれ価格が下がることになり、低リスクバランスの投資信託は値下がりすることになります。すでに一部の海外ヘッジファンドなどにその動きがみられます。低リスクバランス型の投資信託にも下落リスクがあることを改めて認識していただきたいと思います。
金利上昇局面でリスクを減らすには
では、このような金利低下局面で、リスクが低い運用をするとしたらどうしたらいいのでしょうか。ひとつの方法としては元本確保型の定期預金を活用するという方法があります。定期預金はほぼゼロ金利で殖やすことは期待できませんが、評価額を減らすのを防ぐことはできます。これまで、低リスクバランスの投資信託で運用して増やしてきた年金資産の一部を定期預金に切り替えることによって目減りを防ぐことができます。
長期の資産運用では、マーケットの短期的な動きに一喜一憂して資産を売買することは資産を減らし、ストレスを増やすだけなので避けていただきたいのですが、日本の金利はこれ以上下げる余地がなく、債券の価格が上昇することは難しい状況です。長期的な経済動向から見通せる下落リスクがあるのであれば、それは適切に避けるべきだと思います。
株価にばかり注目が集まり、債券価格についてはトップニュースで取り上げられることはほぼありません。しかし、保有されているようでしたら、ぜひ、その動向、そしてその価格に大きな影響を与える金利や支払い能力(信用力)などのニュースも気にして、大切な年金資産の運用に役立てていただきたいと思います。