〈前編のあらすじ〉
34歳の中村梨沙さん(仮名)はリーマン・ショックによる就職氷河期を経験し、辛うじて入社したメーカーに勤めて12年。仕事は順調で充実してはいるものの、プライベートは全くぱっとしませんでした。
原因はネガティブな性格。大学受験失敗や就活の不調で自分に自信が持てなくなり、その反動でひたすら倹約に努め、お金を貯めることだけを考えて生活していました。
預金残高が1800万円になった頃、会社の先輩に誘われワンルームマンション投資のセミナーに参加することに……。すると、思いもよらぬ運命の出会いが!
「この人の意見が聞きたい!」すぐに連絡し翌日訪問
その不動産会社は首都圏で人気のエリアに次々とワンルームマンションを建てていて、私が勧められたのは2400万円ほどの新築物件でした。初期費用がかかるのではと警戒していたら、提案されたのは頭金ゼロの100%ローン。35年ローンを組むと毎月の返済額は7万円程度、これに対し9万円の家賃収入が見込めるため、経費を差し引いても毎月1万円程度の“不労所得”になるというのです。ローン返済後は家賃が丸ごと入るので、公的年金の不足分を十分カバーできるという話でした。
私をセミナーに誘った先輩はオーナーになっていることもあって、「ここのマンションの賃借人は一流企業の若手社員が多いから、定着率が高いの。それに、35年の家賃保証があるから、一時的に空室になっても全く問題ないのよ」と背中を押します。体にフィットした高そうなスーツに身を包んだ営業担当者は、「実は自分も2室ほど投資しているんです」と明かした上で、こんな言葉を口にしました。
「中村様は部門チーフでいらっしゃるんですよね。当社のワンルームマンション投資は、そうした中村様の社会的な信用をお金に代えるものとお考えください」
毎月1万円の不労所得と、老後の家賃収入は確かに魅力です。しかし、いくら信用があるからといっても、30代シングルの私が、いきなり年収の5倍以上の借金を抱えることには抵抗がありました。返事を保留し、帰宅後、「ワンルームマンション投資 大丈夫?」でネット検索しまくりました。
その際一番心に刺さったのが、あるIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)会社のウェブサイトでした。ワンルームマンション投資を一方的に否定するのではなく、その課題や注意点を指摘する客観的な姿勢に好感が持てたからです。「この会社の人の意見が聞いてみたい!」と思い、サイトの問い合わせコーナーから連絡したところ、その日のうちに返信があり、翌日訪問することになりました。
受付で出迎えてくれた女性が担当者の家原さんでした。私より年下に見えましたが、落ち着いた振る舞いは、初対面の私にも安心感を与えました。
「不動産は経年劣化しますし、この先日本の人口が減っていく中で家賃相場も変化します。35年にわたって9万円の家賃収入があるという前提は現実的ではないかもしれません。修繕費などのコストについてもしっかり検証する必要がありますね」
家原さんの指摘はひとつひとつがもっともで、そもそもリスクが超苦手な私が安易に手を出すべき対象ではないことがよく分かりました。
「中村さんは、どうしてワンルームマンション投資をしようと思ったのですか?」
家原さんの穏やかな語り口に促されるように、気が付いたらそのとき自分が抱えていた思いや不安を全て打ち明けていました。なぜか、涙がこぼれて止まりませんでした。