FPはゼネラリストであり、スペシャリストであるべき

——「お金にまつわるアドバイザー」と言える存在は士業を含め多くありますが、そのようななかで、FPはどのような存在であるべきだとお考えですか?

FPは幅広い知識を持ったゼネラリストであると同時に、専門分野に特化したスペシャリストであるべきと考えています。

例えば相続の相談を受けた場合、複雑なタックスプランニングを行うなら税理士に、相続で揉めそうなら弁護士というように、個々の難しい課題について専門家を紹介する。いわば交通整理の役割があります。

どんな問題があり、誰に相談するべきなのか。最適なアドバイスを行うには広い分野に精通したゼネラリストでなくてはなりません。

もちろん、活動を続けていくためには他のFPとの差別化も必要です。そのためには、スペシャリストとして胸を張れる、自分の得意分野をつくることが大切。私の場合は医療や介護、消費者問題などでしょうか。

ゼネラリストとスペシャリストの両面を保つには、知識のブラッシュアップが欠かせません。私の場合、専門分野について分からないことがあったらすぐに相談できるよう、士業の方とのネットワークを大切にしています。

——一方で、FPの資格を取得して満足する方も少なくないようです。

現在、私は東京都内の大学でFP論を教えていますが、学生もFP資格の取得には高い関心を寄せています。ただ、私が独立して20年以上経っても、独立系FPはそれほど増えていない印象があります。もちろん、FP資格の取得目的はさまざまですが、やはり、FPとして共に活躍してくれる仲間が増えてくれることを切望しています。

ある地方のベテランFPの方とお話しした際、「若い世代はFPをツールだと思っている。資格をどう使っていくかしか考えてない」とおっしゃっていたことがあるんです。では、FPとは何ですか? と聞いたところ、「哲学である」という言葉が返ってきました。

FPに限らず、資格はそれを使って、何をするか、何をしたいかが肝心なのですが、たしかに、知識や技術をどう使うかよりも、自分なりの哲学を持って活動することがFPには重要だと思います。

——黒田さんのように20年のキャリアを持つFPが少ないことも課題だと感じます。FPによる「お金の相談」業がより成り立ちやすくするには、何が必要だと思いますか?

やはり、社会のなかでのFPの存在感を高めていく必要があります。相談にお金を支払う、支払わないという問題もあるかと思いますが、私としてはあまり深刻に感じてはいません。

というのも、FPの相談料について、いくらまでなら支払うかというアンケートを取ったことがあるんです。その結果、意外にも無料が絶対条件という方は少なく、自身に合ったアドバイスがもらえるなら有料でも構わないという人が多かったんです。

つまり、我々FPが相談料のあり方について懸念を抱く一方で、世の中には自分が求めるものにお金を支払うという考えが、すでに広まりつつあるのではないでしょうか。そのうえで相談メインのFPとして活動するのが難しいのだとすれば、FPという存在自体が知られていないこと、相談して良かったという成功体験をした人が少ないことに原因があると思います。

FPの役割がもっと多くの人に認知されて社会的評価を受けることができれば、今以上に活動しやすくなると思います。そのため私の“オフィス外”での病院やNPOでの活動は、とにかく1人でも多くの人にFP相談を体感していただいて、「FPってすごいんだ」と知ってもらいたいという目的もあるんです。

ちなみに、日本FP協会にも「くらしとお金のFP相談室」という無料相談サービスがあり、私もセミナーなどでよく紹介しています。ただ、予約枠は限られていますので、各支部が実施するフォーラムなどで、FPが提供できることをもっと多くの人に知ってもらえればと思っています。

——最後に、FPとしての今後の目標を教えてください。

私の最終的な目標は、がんの経験を活かして社会をより良い方向へ変えることです。具体的には、がんなどの病気のお金で悩む患者さんやご家族が、経済的問題について、気軽にいつでもFPに相談できるよう環境を整備していきたいと思っています。

がんに罹患してから『ペイシェント・アドボカシー』という考え方があることを知りました。これは、病院から独立した第三者などが、その患者さんの権利を擁護し、支援することを言います。近年では日本でも、医学会などでペイシェント・アドボカシー・プログラムが行われ、罹患後のQOLを維持・向上するための支援を行っており、私もFPとして参加することがあります。

参加のきっかけは、がん治療中に、あるがん専門医に言われた「何か社会を変えたい、今の社会を良くしたいと思ったら、自ら声を上げて強く訴えるべき」という言葉です。私はしがない1人のFPで、何の力もありません。それでも社会を変えられる可能性があると自分の背中を押してくれたと思っています。

がんとお金は私のライフワーク。医療に関する経済的な悩みを抱えている人へのサポートを通じて社会貢献をしていきたい、社会を変えたいという気持ちはずっと変わりません。とくに、同じがん経験者として患者に寄り添い、問題解決を助けるピアサポートは、どんな形であっても続けていくつもりです。

 

インタビューを終えて…

家計を包括的に見ることができ、一方で他のプロフェッショナルとも連携ながら生活者に寄り添うことができる――唯一無二の動きを取れるFPの魅力がより広く伝わる方策として、黒田氏が取り組むような“オフィス外”の活動は1つのアンサーと言えるでしょう。
そうした活動の背景には、独自の個性(黒田氏の場合は自身の経験も)、得意分野を持っているという点も示唆に富んでいます。
FPが自身の個性を活かせる社会のさまざまなシーンで活動し、生活者と接点が増え、「FPってすごいんだ」と感じられる成功体験が積み上がれば、日本に“お金の相談”が真に根付くのはそう遠くないのかもしれません。

取材・文/笠木渉太(ペロンパワークス)