個人の資産形成では根気よく「継続」を支援

法人に関してはさまざまなスキームを実践した渡辺さんでしたが、個人の資産運用に対しては「ギャンブルのようなもの」と考えていたようで、「儲かりそうな株はある?」などと聞かれることもありました。また、成長中の企業の経営者ともなれば、さまざまな方面から”儲け話”が集まってきます。興味を惹かれる話があるたびに「どう思う?」と意見を求められましたが、私は一貫して「利益の出る仕組みが分からないもの」と「大手企業や公的機関が絡んでいないもの」には手を出さないほうが安全だとアドバイスしていました。儲けられるビジネスには、たいてい大手企業が参入しているものだからです。

そうした怪しい儲け話はあしらっておけばよいのですが、せっかく収入が増えていて、運用にも興味を持っているなら、ギャンブルではない正しい運用をしてほしいものです。そこで、インデックスファンドを活用した分散・積立投資を提案しました。

今でこそオーソドックスな提案内容ですが、2006年の当時はまだ、分配金の出るテーマ型投信で短期・中期的なリターンを狙うスタイルが多数派だった時代。今と違って大手証券会社では、インデックスファンドの取り扱いも少なく、全ての資産クラスでインデックス投資をすることはできなかったのです。

外国株についてはMSCIコクサイインデックスに、日本株についてはTOPIXに連動するインデックスファンドを利用する一方で、新興国に関してはインデックスファンドの取り扱いがなかったので、アクティブファンドを活用してポートフォリオを組み、当初は約3000万円分を一括投資しました。時代の流れにより、インデックス型のバランスファンド、ETF等に管理手法を変更していますが、現在も常にベスト資産管理の環境を探っています。

一括投資と同時に、積立投資もスタートしました。収入が伸びていた時期は月100万円に設定し、2000年代中盤の株高も手伝って順調に残高を積み上げていきました。ところが、そこに「100年に1度の金融危機」と言われたリーマンショックによる株価暴落が襲ったのです。

今振り返ると、株価が暴落していたこの時に追加投資をしていれば大きな利益になったわけですが、その渦中で大きな含み損に直面する人にそのようなことを考える余裕はありません。それどころか、渡辺さんは「もう投資をやめた方がいいんじゃないか」と弱音を吐くこともありました。しかし、積立投資は下落局面も含めて、長く続けてこそ果実を得られるものです。当時はまだ40代で資産が回復する時間も十分に残されていたので、改めて継続する意義を説明したところ、積立投資を続ける決心をしてくださいました。この成果が大きく花開いたこともあり、現在、渡辺さんの投資信託の保有資産残高は2億円に達しています。