「遺産を受け取る権利はないんじゃない?」

そんな中、高子さんが特別受益という制度を知り「高雄の受けた支援は特別受益じゃないの? あなたに遺産を受け取る権利はないんじゃない?」と大激怒したことがあった。

特別受益とは、相続人が受けた特別な利益を指し、相続時にはその分を考慮して各相続人の相続分が決まるというものだ。

今回の事例で言えば高雄さんの相続分が相対的に減り、高子さんと大貴さんの相続分は増えるというものだ。

「たしかに父さんの財産が減っているのは、高雄のために使われたからだ」大貴さんが同意する。

一方、高雄さんは困惑しながらも「それは俺の子の梨乃に対する支援であって……」などと言い訳し、議論は再び平行線をたどる。これによって兄妹間の亀裂はより深くなっていったのだ。

「特別受益」はそう簡単には適用されない

さて、高子さんの主張する特別受益だが、実はこの制度は一筋縄ではなく、そう簡単には適用されない。

なぜなら、教育費や生活費の援助は扶養義務の範囲内として扱われる場合がほとんどだからだ。扶養義務とは親子や祖父母と孫などの親族間での助け合いを言う。

つまり、今回、祖父の政男さんが、孫である梨乃さんや、子である高雄さんに対して、生活費や学費を支援したとしても、それは一般的な生活を送るために必要な範囲の支援であって、扶養義務の範囲内であるので、「特別受益」に該当するとは言えないのだ。

もちろん、高子さんと大貴さんにとっては「不公平」な扱いに見えるかもしれないし、気の毒に思える面もある。しかし、私たちの生活の基盤は法律であり、感情論に流されてはいけない。相続のことも感情だけで決めることはできないのだ。

私はお酒の席で、高雄さんの受けた支援は特別受益には当たらないことを高雄さん本人にアドバイスしたことがある。実は、高雄さんは私にとって地元の先輩に当たる人物だ。彼は人と食事をするのが好きで、私も高雄さんのご自宅やご実家での食事に毎月のように誘われていた。

そんな高雄さんの人懐っこさに気づけば私もほだされ、いくらか深い話もした。今回の話もそういったことが繰り返される中で見聞きしたことになる。

とはいえ私自身、高雄さんにアドバイスしたことは、先日本人から「あの時のアドバイス、ありがとな」というSNSのメッセージが来るまですっかり忘れていた。