ハローワークでの面談
午前の空気は乾いていた。
しずかは玄関で靴をそろえ、薬の入った小さな袋をバッグに入れる。面談の途中で飲むことはないが、持っていないと落ち着かない。
博は無言で上着の袖を通し、鍵を手に取った。
「行くぞ」
「うん」
2人でバスに乗る。揺れに合わせて、しずかは膝を押さえた。長く立つ仕事なら、週に何日が限度か。通院日は休めるか。頭の中で条件を並べ直す。
「緊張するわね」
「そうだな。就職活動なんて30年ぶりだ」
「あ、呼ばれたわ。じゃあ、お互い頑張りましょう」
「ああ、あとで」
求人窓口では、番号札を握った手が汗ばんでいた。相談員にパート歴を伝えると、調理補助と品出しの求人が数枚出てきた。勤務時間の欄を見て、しずかはすぐに頭の中で仕分けする。夕方までの通し勤務は難しい。病院の予定もある。
「ありがとうございます。持ち帰って、よく検討させていただきます」
礼を言ってベンチに戻ると、間もなく別の窓口で相談をしていた博が戻ってきた。博は受け取った紙をめくり、眉を寄せた。
「……さすがにこの歳だと、選べるほどないな」
しずかは返事を急がなかった。言い方を間違えると、博はまた黙り込んでしまうかもしれない。
「選ぶんじゃなくて、探すの。条件に合う所が見つかるまで」
博は息を吐き、紙を折り直した。
「分かってる。意地を張ってる場合じゃないな」
その一言で、しずかの肩の力が少し抜けた。昨日の約束が、少しずつ形になっていく。
帰り道、商店街の掲示板の前で足を止めた。パン屋の裏口に「午前のみ」「週3」の張り紙。しずかはスマホで写真を撮り、連絡先を確認する。博も少し先の金物店の掲示を見つめ、作業補助の文字を指でなぞった。
「俺、ここ電話してみようかな」
博が言う。しずかは頷いた。
コンビニで履歴書を買い、帰宅した。お互いに無言のまま、履歴書を埋めていく。けれど流れる沈黙はこれまでよりもずっと温かい。
