パート先の突然の閉店通告

昼の山を越え、弁当屋のバックヤードの空気が少し軽くなった。揚げ物の油はまだ熱いのに、仕込み台の上はいつもより片づいている。段ボールの数も少ない。

しずかは気づかないふりをして、前掛けの紐を結び直した。店主は伝票をまとめ、鉛筆を耳に挟んだままため息をつく。レジ前の棚は、夕方の補充が間に合わず、品薄のままだ。

しずかはタイミングを見て、声をかけた。

「店長、すみません。来週から、もう少し入れますか。午後の仕込みも」

店主の手が止まり、視線が一度だけ空いた段ボール置き場をかすめた。

「ああ……しずかさんには悪いんだけど……うち、年内で閉めることになったんだ。経営が厳しくてね」

淡々とした口調。

「シフトを増やせば何とかなる」と思っていた頼みの綱が、そこでぷつりと切れた。

「どうしても閉めるんですか」

「うん……いろいろ高騰してるし、客足も戻らない。借り入れを増やす前に、ここで区切ることにした。ごめんね」

店主は申し訳なさそうに笑ったが、目の下の疲れは隠せなかった。

無理は言えない。

しずかはうなずいた。

「分かりました。働ける日までは、これまで通りで」

「助かるよ。本当に」

店を出ると、風が冷たかった。ガラスに貼られた季節メニューの紙が、端から少し浮いている。それを見て、しずかは店長から聞いた「閉店」という言葉が現実になっていくのを実感した。

「ただいま」

帰宅すると、ポストに保険会社からの封筒が届いていた。更新の案内だと分かり、指先が止まる。支払いを想像し、呼吸が浅くなった。

しずかは家計メモを開き、閉店予定を書き足す。鉛筆の先が紙をこする音が、小さく響いた。