実家に現れた大地の決意

玄関のチャイムが鳴ったとき、早苗は洗面所で髪を乾かしているところだった。

ドライヤーを止めると、家の中が急にしんと静まり返る。母の声に呼ばれて行くと、今にも泣きそうな顔をした大地の姿があった。

「早苗に謝りたくて……ちょっとだけでいいから、話せないかなって……」

玄関先の声は低く、どこか頼りなかった。

「……分かった」

「大地さん、どうぞ上がって。寒かったでしょう」

「はい……」

両親が庭いじりをすると言って席を外したので、早苗たちは居間で向かい合うことになった。大地はこたつには入らず、向かい側で正座をしている。

「……来るとは思わなかったよ」

「あの、本当にごめん。ちゃんと謝りたくて……」

大地は目を伏せ、手を膝の上で組んだまま、言葉を探しているようだった。

「俺さ……早苗がどれだけ我慢してるか、本当のところ、わかってなかったんだと思う。仕事の付き合いだから仕方ないとか、飲みたいならノンアルでいいじゃん、とか軽く考えてた」

「そうだね。でも私も……うまく自分の気持ち伝えられてなかった。イライラして怒ってばかりでごめん」

早苗の声は自然と和らいでいた。

怒りの元凶をうまく言語化できるようになったからかもしれない。

「お酒が飲めないのがつらいっていうより、あなただけが今まで通りで……私だけが我慢しなくちゃいけなくて、なんか別の場所にいるみたいだった。お酒そのものっていうより、あの晩酌の時間を一緒に過ごせないのがつらかったんだよね」

その言葉に、大地はゆっくりとうなずいた。

「そうだよな……あの時間、俺たちにとって大事だったんだもんな。俺も、ちゃんと変わるよ。これからは、家でも外でも、俺も飲まないことにする。早苗が飲めるようになるまで禁酒する」

「えっ……」

「同じように酒を制限したとしても、完全には分かり合えないかもしれないけど。でも、せめて隣にいるって思ってほしいから」

早苗は驚きながらも、その言葉をゆっくり受け止めた。張り詰めていた気持ちが少しずつ緩んでいく。

「それじゃあ……新しい晩酌スタイル、考えてみようか。おいしいノンアルを見つけるとか、おつまみのメニューを増やすとか」

「それ、いいな。俺、ちょうど料理極めたいと思ってたんだよね。解禁日に備えて、最高のアテ開発するか」

窓の外では、遠くの家の明かりがぽつぽつと灯り始めていた。日が落ちるのがゆっくりになってきたことに気づき、早苗は小さく息を吐いた。

春は、もうすぐそこまで来ていた。