線引きされた飲み会文化
平日の昼間に部屋にいるだけで、落ち着かなかった。
ローテーブルには手持無沙汰すぎて昼間から飲んでいた缶ビールと、しわになったスポーツ紙。子どもが大学だかバイトだかに出かけていて、妻もパートに出かけている。1人では家の余白を埋めることができないためにテレビはつけっぱなしだ。リモコンを押すとスポーツニュースに切り替わり、今季限りで引退した投手の特集が流れた。
「有終」のテロップと「お疲れさまでした」という声を聞きながら、染川はリモコンを置く。
(まだやれそうに見えたけどな)
スマートフォンが震えた。
「懇親会等に関するガイドライン制定のお知らせ」。
ため息をついて開く。
忘年会・新年会など会社主導の飲み会は原則禁止。必要な場合は事前申請のうえ業務の延長として実施。私的な会合では、業務上の決定や重要な情報共有を行わない――そんな文言が整った敬語で並ぶ。
(見事に線引きされたな)
スクロールしながら、山下の顔を思い浮かべる。
彼が言っていたことが、そのまま会社の方針になっている。
自分が20代のころにはなかった選択肢だ。
上司に「来い」と言われれば、それがその日の予定になった。土曜の夕方、家族で外食に行く約束をしていた日。上からの急な電話で呼び出され、断れずに飲み会へ向かった。帰宅は終電。翌日妻に睨まれながら「また今度ね」と子どもの頭をなでた。
(あれも、今ならアウトなんだろう)
スマートフォンを伏せる。
テレビの中で、「これからの新世代に期待ですね」とコメンテーターが笑っている。カーテンの隙間から細く差し込む冬の光がちかちかと眩しかった。
