山下が受けた不利益の真相

山下は昨年の忘年会の日、体調不良で欠席していたこと。その席で大型案件の話が持ち上がり、出席者の中からほぼその場でメンバーが決まってしまったこと。山下は「飲み会に出席できなかったことで不利益を受けた」と感じていること――。

去年、自分はただ酒を飲み、料理をつまみ、笑っていた。チームメンバーを選抜したのは染川ではないものの、「飲みの場で決まる仕事」に疑問を持たなかったことだけは確かだ。

「そう……だったんですか」

「その場を仕切っていたのは君じゃない。ただ、そういう経緯があったうえで、今年も“忘年会は半分仕事”という前提で話していた。それが彼には二重に重く響いたんだろう」と部長は言う。

若い頃、飲み会で握手を交わしたことは今でも恩だと思っている。一方で、同じ場で機会を逃した誰かのことは考えてこなかった。

「何か、聞いておきたいことはあるかい」

部長が、少し声を柔らかくした。

「……いえ。自宅待機の間にいろいろ考えます」

そう返すのが精一杯だった。

飲みにケーションで育ってきた世代にとって、その文化がまるごとリスクと呼ばれるのは、自分の歩いてきた道を否定されるようでもあった。

立ち上がると椅子の脚が床をかすかに擦った。封筒を持つ手に、紙の端の硬さがやけに鮮明に伝わる。廊下に出ると窓から差し込む夕方の光が、床に長い帯を作っていた。その上をゆっくり踏みながら、自分の席のあるフロアへ向かう。ガラス越しに見えるオフィスの中は、いつもどおり画面の光と人の動きで満ちている。それをしばらく眺めてから、染川はドアノブに手をかけた。