娘にあたってしまった朝

ギリギリの状態で現状維持を続けていたせいで、綾香がいよいよ体調を崩してしまったのは11月も終わりかけようかというころだった。

朝起きた瞬間に、体中がきしむように痛かった。寒さを感じているのに額からは汗がにじんでいる。どう考えても何かしらのウイルスにやられていることは分かった。しかしこのまま寝ているわけにはいかないので無理やり体を起こし、ズキズキと痛む頭を抱えたまま綾香は朝の支度を整える。ずっと準備をしていた案件のプレゼンが間近に迫っていたので休むことはできなかった。

「ママ、あのね」

朝食を終えて洗いものをしていると真莉愛が声をかけてきた。

「真莉愛、ごめん。ちょっと急いでるから早く保育園のお洋服に着替えてくれる?」

「でもね」

「真莉愛……お願いだからママの言うことを聞いて……!」

思わず口調が強くなってしまった。それを見て真莉愛は落ち込んだように離れて行ってしまった。

反省の気持ちがこみ上げてくるがそれを心の奥に押し込み、綾香は洗い物を続けた。

●ノルマに追われ、仕事と育児を1人で抱え込む綾香。ギリギリの状態で走り続けた結果、ついに体調を崩してしまい、朝、娘の真莉愛に強く当たってしまった……。後編【「渡せなかったの…」突き放してしまった娘が用意していたバリキャリのシンママへの"けなげすぎるサプライズ"】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。