家事・育児のあとも仕事
仕事を全て終えて綾香が保育園に到着したのは閉園のギリギリの時間だった。息を切らしながら園内に入ると女性の保育士と真莉愛がやってくる。真莉愛はすぐに綾香に抱きつく。その感触だけで疲れが吹っ飛ぶような感覚だった。
「すいません、いつも……」
真莉愛を抱きかかえながら綾香は保育士に頭を下げる。
「いえいえ、いつもお疲れ様です」
「真莉愛は何か迷惑をかけたりしなかったですか?」
「そんなのは全くないですよ。お絵かきが大好きみたいでいっつもかわいい絵を描いてるんですよ」
そんな世間話もそこそこに、綾香は保育士にお礼を告げて2人で保育園を後にした。
家に帰ってからもやらないといけないことはたくさんある。夕食を作り、その後は洗濯物を回さなければならない。それからお風呂に入れて、寝かしつけ……。ベッドで真莉愛が寝ているのを見て綾香はようやく一息つくことができるが、時刻を見ればもう日付を回ろうとしていた。
ただそれでも落ち着いてテレビを見たりすることなんてできない。
綾香にはまだ仕事が残っているのだ。
1人で全てを抱え込んでいることに怒りを覚えることはある。夫がいてくれればこんな苦労はしなくて良かった。だが両親は離れた場所に住んでいて世話をお願いすることはできなかったため、離婚をするときに1人で育てる以外の方法はないというのは分かっていたことでもある。
エナドリを飲んでからリビングのテーブルにパソコンを開いて仕事を再開させる。資料を確認しようとするとくしゃみが出そうになったので声を抑えてくしゃみをした。
ここ最近、ずっと体がだるく体調が思わしくない。だが、疲れたなんて甘えていられる余裕はない。娘との生活も、仕事のキャリアも、綾香は放りだすつもりはない。
なにより、真莉愛だって頑張っているはずだ。
通っている保育園は保育費こそ割高だったが、英語などの教育に力を入れている。今度真莉愛がどんな選択をすることになっても、気持ちよく背中を押してやるのが親というものだ。そのために、綾香は稼がなければいけなかった。
大きく伸びをする。肩と背中がぽきぽきと音を鳴らす。エナドリを一気に飲んでから、作業に取り掛かる。
