広がる不安と娘への疑問

日曜日、昼を過ぎても幸江は帰ってこなかった。「今日は遅くなる」とだけメッセージが来ていた。紀子はすぐに返信を打ち込んだ。

「今日もバイトなの? 何時に帰るの? 」

だが、画面に「既読」の文字が浮かんでも、返事は来なかった。

「……ほんとに、もう」

ため息まじりにスマホを置きながら、紀子はじっと通知が鳴るのを待っていた。洗濯物をしまうついでに、幸江の部屋に入る。留守中に無断で部屋に入るのは気が引けたが、洗濯済みの衣類が積まれたままだった。少し前までなら、「洗濯物、置いておくね」とひと声かければ済んでいた。それが、今では顔を合わせることすら減ってしまった。

「あーあ、また散らかして……」

ふと、机の隅に目をやると、1冊のパンフレットが置かれていた。表紙に書かれた「自然な二重」「目元の印象を変えるだけで」の文字に、紀子の視線が止まった。

美容整形――そう書いてある。

まさかと思いながら手に取ると、中には施術例の写真と手順、料金の説明。学生モニター、カウンセリング無料。紀子の胸に、ひやりとしたものが落ちた。

「嘘……」

あの子が、こんなものを。縮毛矯正だけじゃない。化粧、服、そして今度は顔まで。

「そこまで自分を変えたいの? 」と、思わず独り言のように口にしていた。