遺産のほとんどは不動産だった
父は昔風に言うなら“道楽者”。ボーナスが出るごとに家にテーラーの人を呼んでスーツを仕立てていましたし、車もお気に入りのメーカーで新しい車種が出る度に乗り換えていました。祖父から引き継いだ広い家があり、住宅ローンを組む必要もなかったので、入ってくるお金はほとんど使い切っていたようです。
おまけに退職後も写真にはまって、元同僚と頻繁に撮影旅行に出かけていました。「お父さんの道楽は諦めてはいるけれど、自分がいなくなった後のことも考えて、少しは貯めておいてほしい」といった愚痴を、義母から何度聞かされたかしれません。
父の葬儀や四十九日を終えた後、義母から私たち兄妹に話があると声をかけられました。
父の遺産についての説明で、父の預金通帳に実家の権利書、固定資産税の納税通知書などを見せてくれました。案の定、父の遺産のほとんどは実家の不動産で、預金通帳の残高は500万円くらいでした。
義母の提案に「異存なし」で進めるはずが…
実家の相続税評価額は3300万円ほど。預金と合わせても4000万円にも届きません。我が家の場合は、法定相続人が義母と私たち兄妹3人の4人になりますから、相続税の基礎控除5400万円の範囲に余裕で収まります。つまり、相続税の心配はしなくていいということです。
義母の提案は実家を処分して、売却代は法定相続分(母が2分の1、私たち兄妹が6分の1ずつ)通りに4人で分けてはどうかというものでした。義母には隣町の実家に独身の実妹がいて、実家に戻って2人で暮らすつもりのようです。
私は義母の提案に異存ありませんでした。私自身、既に子育ては終えていて、住む家もあります。退職したらそれなりの退職金や年金はもらえるはずですし、親の遺産など当てにしていませんでした。
嫁ぎ先が自営業で、義弟のお父さんが亡くなった時にかなりの遺産を手にしている妹も同様です。兄の懐事情はよく分かりませんが、都内にマンションを購入していて、子供2人は中学校から私立の名門校に通わせているくらいですから、お金には困っていないでしょう。
義母は、「私は自分名義の年金をそっくり貯めているから、お父さんの預金は3人で分けてもらって構わない」とも言いましたが、私や妹の方から「この先どんなことにお金がかかるか分からないから、お義母さんが取っておいた方がいい」と勧めたくらいです。
実家の不動産は法定相続分通りに相続する。その時はそれで一件落着と思っていました。
