<前編のあらすじ>
志保と大志の夫婦は、8歳の娘・璃子と共に沖縄でのバカンスを楽しんでいた。離島にわたって海水浴やショッピングを満喫していたが、天候が急転。埠頭までたどり着いたものの、沖縄本島へ行くフェリーが運航中止となってしまう。荒れる天気に、どのホテルにも観光客が殺到し、必死に電話をかけても今日泊まれる宿は1軒もなかった。「休みたい」とぐずる璃子を抱え、途方に暮れる夫婦だったが、延泊を断られたホテルのロビーで意外な人物に声をかけられる。それは……。

前編:「帰れないってこと?」楽しい沖縄旅行のはずが…家族を襲った「まさかのアクシデント」

「うちに泊まっていきなさい」老婦人の思わぬ申し出

ロビーの隅にしゃがみ込み、志保は濡れた髪をタオルで押さえていた。疲れ果てた璃子は、大志の背中におんぶされたまま寝息を立てている。雨音は途切れることなく響き、窓の外の世界は白く煙っていた。

志保が途方に暮れていたそのとき、スタッフ用の扉が開き、年配の女性がモップとバケツを片付けながら出てきた。

白髪をひとつに束ね、作業用のエプロン姿。小柄だが、独特の存在感がある。志保たちの方をちらりと見て、彼女は迷わず近寄ってきた。

「あんたたち、泊まるとこないの?」

唐突な問いかけに、一瞬言葉が詰まった。

「あ……はい。船が欠航になって、ホテルもどこも満室で」

力なく事情を説明すると、おばあさんは口角を上げて笑った。

「だったら、うちに泊まっていきなさい」

あまりにあっけらかんとした提案に、大志が眉をひそめる。

「え、いや、それは……初対面の方にご迷惑は……」

「迷惑なんてないよ。どうせうちは大所帯だし、台風の夜に外をうろつくほうが危ないさ」

志保は大志の腕にそっと手を添え、小声で言った。

「……お願い、行かせてもらおう。もう璃子も限界だし、私も正直……」

「……わかった。でも、何かあったらすぐ帰るぞ」

大志は深く息を吐き、視線を落とす。

「では、お言葉に甘えて……よろしくお願いいたします」

「はいはい、よろしくね。片付けてくるからちょっと待ってて」

おばあさんに案内されて外に出ると、横殴りの雨が容赦なく降り注いだ。おばあさんは停めてあった自家用車に、志保たちを押し込み、こなれた様子でアクセルを踏み込んだ。

ホテルから離れると、観光客の姿は消え、狭い路地が続く。両脇には低いブロック塀と古びた家々が見える。

「このあたりは、昔から変わらないんだよ」

おばあさんが振り返って笑う。その笑顔は、嵐の中でも不思議と安心感をくれる。
やがて、路地の突き当たりに、明かりがこぼれる一軒家が見えた。おばあさんが「さあ、着いたよ」と車を停めたとき、胸の奥で固まっていた緊張が、ふっとほどけるのを感じた。