ゴルフクラブを振り回し医療保護入院へ
そのような中、慎吾さんが30歳を過ぎた頃。次第に心配な症状が現れ始めたそうです。
ブツブツと独り言が増え、家の中を用もなく行ったり来たりするようになったのです。そこからはとても勉強をしている様子はうかがえません。
ある日の午後。自宅の窓の外から下校中の小学生たちの楽しげな声が聞こえてきました。自室にいた慎吾さんの胸は急にざわめき、居ても立ってもいられなくなりました。慎吾さんは両手で机を勢いよくたたき、自室を飛び出してリビングにいた母親に訴えました。
「母さん、聞こえたか? あいつら俺のことを笑ってやがる」
慎吾さんの発言に母親は眉間にしわを寄せました。
「そんなことあるはずないでしょ。あなたの気のせいよ」
「なんで分かんねぇんだよ! あんたも聞こえただろ? もういいよ!」
慎吾さんは大声で叫んだ後、大きな足音を立てながら自室へ戻っていきました。
その後、テレビのニュースを見ては「俺のことを馬鹿にしてやがる」と度々発言するようになりました。「どうやって俺の情報をつかんでるんだ? 家の中に盗聴器でも仕掛けられているのか?」と疑うようにもなっていきました。
ある日の夜。リビングで両親が慎吾さんのことについて話をしていると、そこに慎吾さんが現れました。その手には父親のゴルフクラブが握られています。
「やっぱりお前らはスパイだな? 盗聴器はどこだ? どこに隠した!」
大声を上げながら慎吾さんはゴルフクラブを振り回しました。
ドンっと大きな音がして壁に穴が開きました。同時に母親の悲鳴が部屋中に響き渡りました。
「何をしているんだ! 危ないからやめろ」
そう叫ぶ父親の声は届きません。
慎吾さんは鬼のような形相でゴルフクラブを振り回し続けています。そのたびに壁に穴が開き、家具が大きな音を立てて壊れていきました。
両親はどうすることもできず別室に避難。そこで父親は警察を呼びました。その間にも慎吾さんはリビングで大声を上げながらゴルフクラブを振り回し続けています。
しばらくした後、自宅に警察官が数名やってきました。
「危ないからやめなさい。ゴルフクラブを放しなさい」
そう忠告する警察官。しかし慎吾さんの興奮は収まりません。
「俺を捕まえに来たのか? やれるもんならやってみろよ!」
大きく目を見開き、威嚇するようにゴルフクラブを振りかぶりました。
その後も警察官の制止を一向に聞かなかったため、両親の同意のもと慎吾さんはそのまま医療保護入院となりました。
●その後、慎吾さんは2カ月ほどで退院しますがひきこもり生活は変わりません。母親が息子のためにとった行動は、後編【「入浴や着替えもほとんどしない」就職氷河期世代・ひきこもり男性が送る厳しい日常生活 母親が息子のためにとった行動は…】で詳説します。
※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。