昼間から一人で過ごす子供
「ああ、多分それ、不登校の子じゃないかな。母親はほとんどいなくて、おじいさんに預けられてるらしいけど、昔から人嫌いで有名な人みたいで、近所付き合いもほぼないんだって」
「そう……」
それからというもの家の近所でたびたび女の子の姿を見かけるようになった真澄は、あるとき、神社の石階段にいた彼女に、勇気を出して声をかけてみた。
「こんにちは。ここ、よく来るの?」
彼女は驚いたように目を見開いたあと、すぐにそっぽを向いた。その反応に傷つきながらも、真澄は隣に座り、何気ない世間話を投げかけ続けた。天気のこと、カフェのこと、昔飼っていた猫の話、そして自分自身のこと。最初は黙ったままだった彼女が、しばらくして、ぽつりと自分の名前を口にした。
「……わたし、市子」
「そう……市子ちゃん、か。学校には行ってないの?」
市子は一瞬ぎくりとしたように固まったあと、小さくうなずいた。色褪せたTシャツからのぞく腕が細い。
「……ねえ、市子ちゃん。良かったら、うちのカフェで勉強していかない? 簡単なランチなら出せるし……あ、もちろん、お金はいらないよ。どうかな?」
市子は戸惑ったように視線を彷徨わせたあと、ためらいがちに尋ねた。
「……行っても、いいの?」
「もちろん。いつでも、待ってるから」