突然の訃報…消えた遺言書の行方
その叔母が急死したという知らせが入ったのは昨年末のことでした。昼を過ぎても事務所に顔を見せないのを心配した古参の従業員が隣接する自宅を訪ね、亡くなっている叔母を発見したのだそうです。急性心筋梗塞でした。
翌日には弟と駆けつけ、行政上の手続きや葬儀の手配などを行いました。事業所の方は頼りになる従業員が何人かいて、叔母がいなくても営業が滞ることはありませんでした。
私や弟はよく事情を知らなかったのですが、近年のインバウンド(訪日外国人観光客)需要で人気化した商品がいくつかあり、事業所はそれなりに繁盛していたようです。
気になったのは叔母の遺体を見つけた従業員が「社長は遺言書を用意していたんじゃないかと思う」と話していたことです。
その従業員にも立ち会ってもらって叔母の家を探しましたが、見つけることができませんでした。貸金庫にでも入れているのかと思い、叔母と取引のあった金融機関に問い合わせましたが、貸金庫を利用している様子もありません。
弟に法務局で自筆証書遺言の保管制度をやっていると聞かされ、問い合わせもしました。しかし、叔母から遺言は預かっていないという返事でした。
そんな中で、そろそろ相続の手続きも始めないといけないと事業所の顧問税理士と話をしていた矢先、家庭裁判所から呼び出しがありました。叔母の遺言書の検認手続きを行うとのことでした。
検認とは、遺言書の存在や内容を相続人に知らせる手続きのことです。亡くなった人が自分で書いた自筆証書遺言は、偽造や変造を防止するために家庭裁判所で検認を行うことになっているのです。
私や弟にとっては寝耳に水でした。あれほど探しても見つからなかった遺言書が存在するというのですから。狐につままれたような気持ちで家庭裁判所に赴きました。
葬儀で見かけた見知らぬ弁護士が持参した衝撃の遺言
叔母の遺言書を預かっていたのは、とある宗教団体系列の団体の弁護士でした。顔を見てすぐ、「あ、叔母の葬儀に焼香に来ていた人だ」と気づきました。葬儀に参列していたのは大半が事業所の従業員や近所の人でしたから、見慣れない顔が記憶に残っていたのです。
開封された叔母の遺言書は、A4の用紙1枚のシンプルなものでした。しかし、そこに書かれていた内容は衝撃的でした。
叔母の個人資産、事業所を含めた全財産をその団体に遺贈するというものだったからです。
●団体はなぜ杉浦さんの叔母の遺産を受け取るに至ったのでしょうか。家族が巻き込まれた騒動の結末とともに、後編【「私たちがしっかり面倒見ますから」自称“かわいそうな老人”の叔母に近づき、遺産を奪い去った団体の「巧妙なやり口」】で詳説します。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。